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溺れる爪痕
【ファンタジー 官能小説】

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純血-8

 「くっ・・・!」

バチンっ、と電光石火の如く弾けた空気に顔を歪ませたのは、ノアの方だった。

「・・・・お願い?そんなものとっくにしたじゃないか。俺は退いてくれと言ったはずだよ?」

「なっ、・・・どうして・・・?」

スプリングに尻餅を付きノアは上擦る声で問う。

自分よりも力の弱いアズールが、最高ランクの緊縛を破るなんて不可能なことだ。

なのに、アズールは平然と身を起こし、仰ぐようにノアを見据える。

しかも解放と共にアズールはノアの体液を全て解毒し、あれだけ昂らせた欲情を残らず鎮めているのだ。

自信と傲りにまみれたノアに、それを解せるわけがなかった。

「俺が力付くでお前の緊縛から脱したと思う?」

「出来るわけないよ、アズール。そんなの無理に決まってる」

「何度か試みたけどやっぱり無理だった。さすがは軍事隊最高魔術師ってとこだ。恐れ入ったよ」

手早く衣服を元に戻していくアズールは乾いた気怠い笑いを溜息にして大きく吐き出す。

すっかりいつもの調子に返った表情に口調。目の前の男を恨めしく見詰めてノアは続きを促すよう顎をしゃくり上げる。

「俺の力じゃノアの力を破るに到底及ばない。だから、一つずつ分解してみたんだよ」

「・・・・分解?」

「そうだよ。緊縛は最強の拘束術だけど基礎はどれも一緒だ。一般的な拘束術の応用みたいなものだね」

「確かにそうだけどさ、君には使えない技術だろ?」

「ああ。ご存知の通り、そこまで複雑な術を組合せられるだけの力が俺にはない。それが出来れば術同士をぶつけて壊せるんだろうけど」

「・・・・なら、どうやったのさ?」

「逆算してほどいたんだよ。どんなに複雑で強靭な術もバラバラにすれば一つの持つ力は一般的なそれと同等。寧ろそれ以下の朦弱なものまであったし」

「・・・・まさか一つ一つ解除したの?あの最中で?」

「でもさすがに時間が掛かった。かなり焦ったのは事実だよ?」

「どんな頭してるんだよ。忍耐力とかってレベルじゃないよ、それ」

「集中力を見せてみろって言ったのはお前だろう?俺に同じ技は二度と使えないから。残念だったね、ノア」

にやっと笑みを投げてきたアズールに、薄ら笑いでノアは応える。

この男に弱点はないのか?と、思ったノアの脳裏にそれが過ったのと、身なりを正したアズールがそれに意識を向けたのは、同じタイミングだった。


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