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死角空間
【SF その他小説】

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俺の身に起きたこと-3

俺は自分の体の周りに死角空間ともいうべきものを持っていて、服を脱がなくても透明人間のようにその存在を目視されることはないのだ。
では死角空間の中にどれくらいの大きさのものなら入れることができるのか?
俺はまず買い物用のバスケットに挑戦してみた。これがなかなか難しい。
沢山重ねられたバスケットのうちの1つだけを手に取ろうとするのだが、何故か反発されてバスケットの積み山が崩れて倒れる。
直そうとして手を伸ばすと更にバスケットは床に散らばる。
俺は諦めた。物音で店員たちが慌ててこっちに向かって来る。
俺はそっとその場から離れた。
そのとき俺は見た、ワゴンの上に乗った食料一杯のバスケットを。
これだけあれば当分食べて行けるな、と思い俺はその食料品一杯のバスケットを手にした。
そうなんだ。俺はバスケットを掴んでいたんだ。
「あら、私の買った物が籠ごと消えちゃった」
近くにいた主婦が騒ぎ出した。無理もない。買った物が消えたんだから。
主婦は慌ててサービスカウンターに盗難の被害を訴えに行った。
俺はそっと元のワゴンにバスケットを戻した。
係員と一緒に戻って来た主婦はバスケットがあるのを見て二度驚いていた。
「あらいつの間に?」
俺は騒ぐ主婦の声から離れて、缶ビールを一缶掴んでバスケットの中に入れてみた。
それからそのバスケットを掴むと簡単に持つことができた。
つまり食料が入っているとこの死角空間は中に入ることを拒否しないのだ。
(まるでアミーバーのようだな)
俺はふとそう思った。アミーバーは食料を体内に取り入れ不必要な物は排泄する。
この空間も同じことをしているんだと。
そのとき3才くらいの女の子が母親から離れて店内をうろうろしているのに出くわした。
その子はきょとんとして立っていたが、俺はそのふんわりしたホッペを見て心の中で『お餅みたいでうまそうだな』と半ば冗談に思ってしまった。
そして思わず手を伸ばすと、その子を抱き上げていた。
その子を抱き上げた途端、俺の周りの空間が曇りガラスの膜のようなものに覆われた。
「おじちゃん、ここどこ?」
女の子は不思議そうに俺の死角空間を内側から眺めている。
「お嬢ちゃんは夢を見ているんだよ。今目が覚めるよ」
そう言うと俺はその子を空間の外に出してやった。すると曇った膜は透明になった。
「さっちゃん、どこにいたの? 急に消えたものだからママ心配したんだよ」
母親らしい女がその子を抱きかかえた。
俺は思った。昔からある神隠しとかは、きっとこの現象を言うのだろうなと。
女の子はきっと自分は幽霊を見たと思うかもしれない。
けれどもこの現象は今実際に俺の身に起きている。
これこそ、きっとさまざまな不思議現象の原因なのかもしれない。
バスケットの積み山を崩したのはポルターガイスト現象と思われるかもしれないし、声だけ聞こえたのは幽霊とか神の啓示とかその類だと思われたかもしれないのだ 


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