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死角空間
【SF その他小説】

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俺の身に起きたこと-2

喉詰まりしそうになったので、牛乳パックを開けて中身を飲んだ。
空になったパックは床に捨てた。すると初めて声を出した者がいた。
「あら、空の牛乳パックが落ちている。誰か飲んだのかしら。ひどいね」
二人連れの若い女だった。俺は開き直って言った。
「俺だよ、飲んだのは。店に知らせてくれよ」
「えっ? どこ」「何? 今喋ったの誰」
若い女たちは俺の目の前にいるのに、きょろきょろ見回していた。
そこで俺は気がついた。俺は周りの人間の目には見えない存在なんだと。
ということは透明人間か幽霊のようなものなんだと。
俺は若い女の一人の前に立ってそいつの顔に手で触ろうとした。
するとその女はふわーっと横に逃げて行った。
「どうしたの? 急に横に行って」
「なんか、風のようなものが顔に当たって来たからなんとなく」
「店の中で風なんか吹く訳がないじゃない」
俺は悪戯心でもう1人の女の胸の膨らみを掴もうと手を伸ばした。
だが俺の手が女の胸に触れる前にふわっとした空気の塊のような感触が手に伝わり、女の体は後ろにさがって行った。
俺が押した形になったが、俺が出した力よりも強い力が女に働いたようだ。
「あらあら……なんか風というか空気の塊が胸にぶつかってきたよ」
「あんたも? エアコンの風かな」
俺は更に調子に乗って背後から二人のスカートをめくり上げた。
「きゃーっ」「いやあ!」
二人のスカートは見事に捲れ上がり、下着の色まで見えた。
だがその後数回試みたが、彼女たちの体に触ることはとうとうできなかった。
まるで2つの磁石の同じ極同士を近づけたみたいに、相手の体がすっと離れてしまうのだ。
女達はこの場所は風が来るから移動しようと言って向こうへ行ってしまった。
俺は床に座り、少し考え込むことにした。そしてこれらのことについて考えてみた。
自殺したときから俺の身に何かが起きた。
でも俺は死んだ訳ではない。
俺が幽霊だとすると、木の枝に俺の死体がぶら下がっていた筈だし、魂だけの存在がコロッケやパンを食べられる筈がない。
一度死にかけた為に、俺の中の何かが目覚め超能力のようなものが目覚めたのかもしれない。
だが俺は透明人間になった訳でもない。何故なら俺は自分の姿が見えるからだ。
だが俺の姿は周りの者に見えない。
コロッケを食べたときも、空中にコロッケが浮かんだりして店員を驚かせてはいない。
俺が手に持ったコロッケも店員には見えてなかった。
だから俺は透明人間でもない。
ただ、俺を囲むごく狭い範囲の空間が周りの人間の死角になって見えないらしいのだ。
その空間は空気のバリアのようになっていて、外側からの衝撃を受け流す働きをするらしい。
もう一つ気になるのはコロッケやパン、牛乳パックなどはこのバリアの中に簡単に入れられるが、先ほどの若い女性のような存在に触れようとするとバリアは弾き返してしまうことだ。
また、飲み終わった牛乳パックはバリアから投げ捨てられたとき外に出て、床に落ちたところを若い女性たちに発見された。
要するに俺の体を囲むバリアみたいなものがあって、小さいものは出入り自由だが大きいものは拒否されるということ、そしてバリア内のものは外側からは見ることができないということだ。
。 


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