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【サイコ その他小説】

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それは私が進学塾の帰りでの話です。学校から直行してから二時間、学校の先生よりも格段に判りやすいバイトの大学生講師の授業を受け、現在時刻は7時11分。そろそろ暖かくなってきた頃ですが、まだ夜の訪れは早かったので、私の視界はまるでテレビコマーシャルで紹介されている、発毛剤を使った後の中年のおじさんの頭部のように(ものすごく分かりにくいですね)、真っ暗でした。そして私が帰路の途中の立体交差点の階段の上に見慣れない物があったのです。

…ずいぶんおかしな置物だな。

それが私の始めの印象でした。そのとき私は愚かにも二つの要点を見逃していたのです。

一つ目は、この町には最近おかしな事件が多発している、ということ。おかしな事件と言うのは面白い事件と言う意味ではありません。猟奇的な事件ということです。それも殺人です。殺人?君々、あのね、殺人事件なんてセンセーショナルなことが自分の住んでいる町で起きたら、そりゃー、ねえ、普通は忘れんだろうが。と言う方も中にはいらっしゃるでしょうが、悲しいことに、もしくは喜ばしいことに人間は慣れてしまう生き物なのです。何を隠そう私の友達でクラスメイトの内樹美駆ちゃんもお腹にぽっかりと大きな穴を開けて死んでいたそうです。彼女は生前風紀委員に所属しており、曲がったことの大嫌いな正義感の強いいい娘でした。ついでに言うと隣のクラスの赤羽十くんも同じような死に方で転がっていたそうです。そんなこんなで、身近な所で身近な人間が死んでしまったからこそ、私はこの異常な状況になれてしまったのです。現在の状況を中途半端に理解して、異常を日常の出来事だと錯覚してしまうという、最悪で、それでいて最悪の異常ですね。それにまあ、最近はかなりの数の警察の皆さんがパトロールしていることですし(まあ、それも日常の一ページに私にとっては成り下がっているんですがね)。

二つ目は、これは単なる私の観察眼が無いために発生した事態なのですが、昨日まではこんなところに置物は無かった、ということです。

近づいてみたところ、それは『置物のような物』でした。

想像できますでしょうか?まず手足の無い人間が二人います。そのうち一人は頭も無いです。あるはずの頭の無い首の上にはもう一人の人間の股間と接続されています。私には判断できませんでしたが、目のいい人か、頭のいい人か、勇気のある人か、変態的な要素を持った人であれば首と股間に大きな穴を開けて、その二つの穴に人間の腕を一本通すことによって、二つの胴体を繋げているということが確認できたでしょう。頭の無い胴体のほうには、三本の腕と四本の足が所構わず突き刺してあり、まるで背の低い広葉樹のようでした。上に載った胴体はお腹が裂けており、その中に生首が一つ収められておりました。きっと下の方の首でしょう。目はばっちり開いています。別にそうしたくてそうしたわけではありませんが、目が合いました。とてつもなく濁っています。嵐の日の海くらい濁っています。

もちろん『置物のような物』を見た私は一目散に逃げ出しました。だっていくら異常事態に麻痺しているとはいえ、これほど常軌を逸しているのを見るのは初めてなのですから。

全く、何を考えてあんなところに、しかもあんなもの置いておいたのでしょうか?まったく、変質者の考えることは理解に苦しみます。私はぷりぷり怒って疾走していました。

ああ、言い忘れていましたが、二人とも死体です。念の為。


「ちょっとー、ねーもう聞いてよー皆、昨日さー」

さて、翌日になりました。私は学校の二年四組に着くなり昨日の出来事を友人たちに話しました。

「へー。珍しいねー、このクラスでは初めてなんじゃない?」「え?稲生が見たんだろ?」「マジ?嘘じゃねーの」「稲生のはガセなんじゃなかったか」「何かそーいう話前雑誌で見たし」「うお!すげえ!俺も見てー」「隣のクラスの誰かが死体見たことあるっつってた。だれだっけ?」「あたしに聞かないでよ」「変った殺し方だな。芸術を表現したのかもな」

「なんか意味あるのかねぇ」

とまあ皆、自分の町でまた新たに、緊急事態が発生したというのに言うのに呑気な盛り上がり方をします。その時です。

「不謹慎ですよ」

大きな声を出した訳でもないのによく通る声。私も私の周りにいた人達は発言を中止します。

声のするほうを見るとそこには、今は亡き美駆ちゃんの机の上の花瓶に新しい水を入れ替えてきた眼鏡をかけた知的なイメージの人が立っています。左目の下の泣き黒子が印象的です。女の子、と言うよりも、女性、と言った方がピンと来るような容姿でしょう。セクシーなの?キュートなの?と訊かれれば、セクスィー・ダイナマイツ!と私は答えます。


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