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サプライズ・カウンター
【その他 官能小説】

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サプライズ・カウンター-4

―彼女が来店し続けて5日目。
一部の常連さん達の間でも話題になり始めていた。男性のみのグループで来店したお客様も、彼女の存在が気になるみたいだ。
…カランカランッ!
『あっ、いらっしゃいませっ!』
『よぉ、リンっ!
外、降り始めたで。』
ナオさんだった。カウンターの指定席に座り、すぐさま冷蔵庫からビールを出す。
…プシュッ!
『また自分で…私の仕事、取らないで下さいよぉ〜。』
『まぁ、エエやん。細かい事、気にすんなっ!しかし、いきなり雨足強ぉなったわぁ。ギリギリ店の前やったから助かったで、ホンマ。』
ビールを呑みながら話し始めた。その時、私は気が付かなかった。彼女が席から立った事を。そして、ナオさんの隣に座った。
『久しぶり、尚之さん。元気そうね。』
『ま…真琴…さん?』
彼の表情が強ばる。しかし、その顔は一瞬にして変わった。今まで見た事もない、恐い表情だった。
『何しに俺の前に姿を表したんや?返答次第じゃ承知せんぞ。』
『じゃ、私は承知されないかも。大体からして、聞かなくても分かってるはずでしょ?』
『俺にはもう関係ない問題や。以前、話した通り。それしかないわ。』
『あなたはそう言うけど、私達がそれで納得すると思う?はい、そうですか。って、手ぶらで帰るワケにはいかないのよ。』
不穏な空気が漂う。こんな時でも彼女は表情を変えない。
重苦しい空気がカウンターを包む。そして、それを察知したかの様に彼女が口を開いた。
『まぁ、イイわ。今日のとこは帰る事にするわ。でもね、諦めたワケじゃないから。』
彼女が会計を済ませた。外は強い雨が降っていた。しかし、それも気にせずに店を出た彼女。
しばしの沈黙。重苦しい雰囲気は、まだ消えない。おもむろに口を開いた私。
『今の方…ナオさんのお知り合いですか?』
しかし、答えは返ってこなかった。しばしの沈黙。
…ベコッ!
ビールの缶の潰れる音。
『ナオさん…』
『リン、帰るわ。すまんな、イヤな思いさせて。』
何も返せなかった。苛立ちを感じながらも、店の事を気にしてくれた彼。しかし今は、「いつものナオさん」を演じてくれているだけだった。
会計を済ませ、店を出る彼。外はさっき以上のどしゃ降りになっていた。
『今日は悪かったな。』
うつむいたまま、彼が言った。
『ナオさん。また来て下さいね…』
何かを言いたかった。でも、これしか言えない。これしか思いつかなかった…
『当然やろ…』
初めてだった。こんなに覇気のない返事は。
雨に濡れる彼の背中。とてもとても、淋しく感じた…

―それから二週間。あの件以来、例の彼女は顔を見せなくなった。そしてナオさんも…
頭の中には色々な憶測が渦巻く。
…カランカランッ!
『あっ、いらっしゃいませっ!』
和哉さんと明人さんだった。
『リン、どうした?
元気なさそうだな。』
『また尚之にでもいじめられたかぁ?』
私は意を決して、二人に例の事を話した。


『アイツ、そんなイイ女と知り合いだったのかよ…』
『明人、お前が言うと論点ずれてる気するんだけど。それに、そんなの愛美ちゃんが聞いたら…』
『おいおいっ!頼むから勘弁してくれよっ!!』
この二人はいつもこんな感じだ。
『あのぉ…マジメに考えてくれてますぅ…?』
『えっ?もちろん、マジメだよ。まぁ、尚之の事だから、昔の彼女とのもめ事が再燃したとか…』
全然、マジメな雰囲気を感じない。
『それよりさぁ…』
和哉さんが口を開いた。
『リンはそれを見て、どう思ったの?』
《えっ…!?》
和哉さんは時々、核心を突く発言をする。
『私は別に…』
言葉が濁る。明確な返答なんか出来ない。思い出しただけで心の中がモヤモヤする。
『どう思うも何も、店に迷惑かけるな、とか思ったんじゃないのか?』
明人さんの言葉で、私は考えを切り替えた。
『そっ、そうですよっ!少し暗い雰囲気になったから、あんまりよくないなぁ、って思って…』
『ふ〜ん、そうなんだ。やっぱ、リンはお店第一に考えてるんだねぇ。』
苦し紛れの切り返し。しかし、それなりにウマくはぐらかしたと思えた。

―それから二人は、一時間ほどして店を後にした。帰りに和哉さんと美樹ちゃんが何かを話していた。少し気にはなったが、プライベートな内容ならマズいので特に何も聞かなかった。


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