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サプライズ・カウンター
【その他 官能小説】

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サプライズ・カウンター-1

『じゃ、毎度っ!』
『あっ、ご苦労さまでしたっ!』
開店前の掃除をしながら酒屋さんに挨拶した。毎晩、閉店後にモップがけはしているが、所々にふき残しがある。
《これで注文した商品は全部かな?》
掃除の手を休め、伝票に目を通す。届いた商品と照らし合わせ、チェックを入れる。
《あの店、よく間違えるしなぁ…》
最近も生ビールの樽を納品し忘れたり、ヒドい時には他の店の発注品を持ってきたりする。
しかし、この界隈の量販店の中では一番安い。ミスった時にはオマケまでしてくれるし、24時間配送サービスには助かっている。
《よしっ!今日は大丈夫みたいだな。》
急いで掃除を終わらせ、商品を補充する。昨晩は缶ビールの売れ行きがよかった。店頭用の冷蔵庫の中に詰め込む。
…ガタガタッ!
カウンターの方で音がした。
『コレ、どこ置く?』
常連のナオさん〈尚之〉だった。入り口を開けたままにしていたので、勝手に入ってきたらしい。オマケに、ついさっき届いた焼酎の箱を抱えている。
『あっ、イイですよぉ。私、やりますから…』
『アホっ!はよぉ片付けんと、店開かんのやろ?エエからお前はそっちやれっ!』
相変わらず口が悪い…
ナオさんは、この店が開店した当初から顔を出してくれている常連さんだ。
関東の生まれらしいが、子供の頃から親の仕事の都合で、近畿や東海地方に長く住んでいた結果、関西弁が標準になったそうだ。本人曰く、[ハイブリットな日本語]。
イマイチ、意味が分からない…
『終わったで。灰皿もらうわ。』
早い。やっぱり男性が手伝ってくれると力仕事はスムーズに終わる。しかも、店員の私より保管場所を理解してる。これじゃ、まるっきり立場がない…
『リン、ビール。』
リンは私〈いづみ〉の店でのあだ名だ。二年ほど前、出勤途中に自転車に激突された。それを他の常連さんに見られたのが発端だった。
それから【チャリンコ】と呼ばれ、【リンコ】、最終的には【リン】になった。
当時は照れ臭かったし、イヤだった。しかし今ではみんな、親しみをこめて呼んでくれているから逆に気に入っている。
『あっ、すいませんっ!』
急いで冷蔵庫から冷えているビールを探す。
…プシュッ!
しかし、時すでに遅し。とっくの昔にビールを出し、開けていた。この人はいつもこうだ。
『ナオさん…』
『ん、エエやろ。どうせ待たされるんやったら勝手にヤルわ。勘定を誤魔化すワケちゃうし。それよりツマミっ!』
いつもこの人にはペースを乱される。勝手だ。だが、どこか憎めない。とても優しい(と、思う)し、他のお客様がいる時は必ず気を遣って、自分を後回しにしてくれる。いわゆる【イイ人】だ。

…カランカランッ!
開店して間もなく、入り口が開く音がした。
『いらっしゃいませっ!』
『おっす、リン。』
常連のお客様二名〈和哉&明人〉だ。
『何や、二人して。』
『おぉ尚之、お前来てたのかよ。』
彼らは大学時代の同級生で悪友同士。
最初に来店して頂いたのが和哉さん。その後、明人さんやナオさん達を店に連れてきてくれた。
『リン、生。それと枝豆にポテフラ。』
『俺、エビス。』
カウンターに座りながら注文する二人。おしぼりとコースターを三人分並べる。
それから急いでカウンター内の冷蔵庫から、冷えたジョッキを出し、サーバーからビールを注ぐ。
そしてカウンターの外に回り、缶ビール用冷蔵庫からエビスを出す。
『お待たせしましたっ!』
すぐさまカウンターに戻り、お通しの準備。開店直後はいつも一人で切り盛りしてる。バイトのコ〈美樹ちゃん〉は忙しくなりだす8時頃には来てくれる。
『おい、リンっ!』
ナオさんの声だ。
『そんな急かさんから、ゆっくりやれ。お前、焦ればいつも失敗ばっかやろ?』
痛いとこを突く。ナオさんにはよく、ミスった場面を目撃される。最近だと注文を間違えたり、お皿を割ったり…
ヒドい時には、グラスを倒してビールまみれにした事もある。その時の被害者がナオさんだった。しかし、一言も怒らなかった。
『気にすんな。』
こう言って、片付けを手伝ってくれた。その件から、個人的な印象がガラリと変わった。

『じゃ、お疲れっ!』
…カキンッ!
ジョッキと缶の当たる音。和哉さんの合図での乾杯、そして一気に飲み干す。この三人恒例の儀式だ。
『しかし、久しぶりやなぁ。何してた?』
『最近、忙しくて。俺も明人も、全然休んでないよ。』
『そうそう。二人で過労死寸前。ところでお前、最近どうなんだ?せっかくあの時誘ったのに…』
私は以前、和哉さんと明人さん二人が会社を興す時にナオさんを誘った話を聞いていた。今回もその話題みたいだ。


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