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19歳
【ラブコメ 官能小説】

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回想Bパート-1

――回想Bパート


 隊長というのは、もちろん通称で、ホントの名前は“大田銀杏”という。そういう名前の
場合は、フツウだったら“だいた”とか“いちょう”とかいう呼び方になるんだろうけど、彼
は『きらめき旅団』という音楽グループのリーダーだったから、みんなが隊長と呼ぶよう
になったのだそうだ。 
 ん? それだったら“団長”じゃないのかって? 違うんだなぁ、これが。団長っていう
呼び名の人は別にいて、グループのドラムを担当してる人。年齢は一番上だったけど、あ
んまり関係ないらしくて、別にリーダーってわけじゃなかったみたい。ちなみに、ギター
担当は“明朝”で、ベース担当が“蝶々”(女の人なのよ)。そいでもって、ボーカル担当が
リーダーの“隊長”なんだけど…何だかよくわかんないよね?

 あたしが『きらめき』のステージを初めて観たのは、高校2年の3学期、二人目の彼と
セックスしなくなった頃だったかな? 水泳部員としちゃ、あんまりマジメとは言えない
あたしは、冬場の走り込みを適当にサボって、週4くらいでレストランのホール係のバイ
トを入れてたんだけど、そこで知り合った大学生の女の子に誘われてライブに行った。

 そのときの『きらめき』のパフォーマンスが、とにかく、もう、スゴかったのよね。

 まず、ベースとドラムの音量が、とにかく超デカい。ステージの入ったスペース自体が
狭くて、演者と観客の距離が近かったせいもあるけど、音が耳から聴こえてくるんじゃな
くて、からだ全体が鼓膜になって直接に揺さぶられているような不思議な感覚。
 その上に「これ、絶対ギターの音じゃないよ」と、思わず突っ込みたくなるような奇妙
な音色の和音とメロディが複雑に絡んで、いくつも重ねて被せられる。
 耳とからだが音に支配されて、頭の中がジーンと痺れたようになったタイミングで歌が
始まる。初めは楽器の音に埋もれてしまっていた声が、だんだんと聴き取れるようになっ
てくると突然、音が止まり、そこからガラっと曲調が変わって演奏が再開される。
 ここまでで、既にココロがどこか別の世界に飛ばされてしまってるんだけど、極めつき
は、隊長の声だった。力強さと繊細さ、たくましさとやさしさを併せ持った、高く澄んだ
歌声。足下から頭の上へ鋭く突き抜けていく強烈なハイトーンヴォイスに、あたしは一発
で魅了されてしまった。

 それからは、ステージがあるたびに『きらめき』の演奏を聴きに行くようになった。そ
のうち、メンバーの知り合いの人と仲良くなって楽屋に遊びに連れて行ってもらったのが
きっかけで、隊長ともフツウに話をする間柄になった。
 隊長をはじめ、メンバーさん、他の音楽仲間の人たち、ファンの人たちなんかと、一緒
に打ち上げに入れてもらったりして、音楽以外にも色々な話をした。
 メンバーさんたちは、隊長は“自由業”だったけど、他の人は、みんな仕事を持ってて、
空いてる時間を見つけて練習やライブをやってるってこととか、高校生はあたしだけで、
他のファンは大学生や社会人が多いこととか、今まで知り合ったことのない年上の人たち
とのつき合いは、すごく新鮮な経験だった。
 人の輪の中で一番年下だったあたしは、音楽仲間のマスコットみたいな感じで、色んな
人たちに可愛がってもらった。空き時間に楽器を教えてもらったり、歌詞のアイデアを出
させてもらったり、チラシのイラストを書かせてもらったり、他のグループのライブに連
れて行ってもらったり、ホントに楽しかった。


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