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画面の中の恋人
【純愛 恋愛小説】

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画面の中の恋人-14

『ミコさんへ
 まず、お返事がこんなに遅くなってしまって申し訳ない。いくつかの仕事に追われていたことと、もらったメッセージにどう返信していいか迷っていたのが正直なところです。
 結論からいえば、写真の交換はできない。それは僕の方の勝手な事情で、決してあなたのことを大切に思う気持ちに嘘は無い。なにかをごまかすために言っているのではないと、それだけはわかってほしいと思う。
 
 1週間も放っておくなんて、僕は早くも恋人失格かな。最近はブログも更新していないね。僕の返事が無いことに落ち込んでいたのかな、と思うのはうぬぼれすぎだろうか。もしもそうだとしたら、不謹慎ながら嬉しく思います。 名無男』

 もう写真のことなんてどっちでも良かった。名無男がまたメッセージをくれたことで、乃理子は緊張の糸が切れたように涙ぐんだ。画面が涙で滲む。急いで返信を打つ。

『名無男さま
 こちらこそ、本当にごめんなさい。いきなり写真だなんて……こうしてメッセージをやり取りできるだけでも幸せなのに。この1週間、わたしはたしかにおかしかった。あなたに恋人宣言されてから、ずっとわけのわからない妄想ばかりしていました。笑わないで読んでくれますか?
 
 この家を出て、名無男さんとふたりで新しい生活を始めるという妄想です。休日には一緒に買い物に出かけたり、たまには旅行に行ったり、仕事から帰ってきた後に他愛もない話をしあって笑ったり……そんな当たり前の夫婦のようなことを一緒にできたらいいなって思っていました。ごめんなさい、奥様もいらっしゃるのに、勝手にこんなこと考えてしまって。
 これからもたくさんメッセージのやり取りを楽しみたいです。 ミコより』

 送信し終わって画面をぼんやり眺めているうちに、すぐに返信が届いた。

『ミコさま
 あなたは本当に可愛らしい人ですね。よければ、あなたにとっての理想の家庭像をもっと聞かせて欲しい。休日に一緒に買い物に行って、両行もして……ほかにどんなことがしたいと思っているんだろう。僕もできることなら、あなたとそんな生活がしたい。
 無責任にこんなことを言うのはいけないことですね。反省します。 名無男』

『名無男さま
 メッセージの中だけでも、そんなふうに言ってもらえて嬉しいです。やりたいことはまだまだたくさんあります。
 例えば、お給料日の夜だけはふたりでお気に入りのお店のディナーを食べに出かけたり、何か共通の趣味を持つのもいいと思うし……季節ごとの洋服を一緒に見に行くのも楽しそう。あなたに似合う洋服を、わたしがあれこれ選んで試着してもらったり。
 どれもこれも、あたりまえすぎることばかりですよね。でも、わたしがしたいのは、心を許せる相手とそんなあたりまえの暮らしをすることなんです。  ミコより』

『ミコさま
 僕たちはすごく考えが似ているように思います。ミコさんが書いたような暮らしは、僕の憧れでもあります。現実にはなかなか難しいこともあるかもしれないけど、そういう毎日を重ねていける夫婦は幸せだろうと思う。
 あなたを妻にしたご主人は、幸せ者ですね。 名無男』

 夫は……明彦は乃理子と結婚して幸せだと感じたことはあったのか。今はそれすら疑問に思う。乃理子と名無男は一晩中メッセージのやりとりを続け、その中で乃理子は拗ねて見せ、彼に甘え、彼はそんな乃理子をどこまでも受け入れた。幸せな時間は瞬く間に過ぎ、気付けば朝がやってきていた。

 ふたりはお互いの生活に支障がないようにとルールを決めることにした。平日は夜中に1時間だけ、休日前夜は気が済むまでメッセージのやり取りやチャットをしようということに決めた。


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