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新・ある季節の物語
【SM 官能小説】

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(夏編)-1

…ねえ、みんな、知っているかしら…
最近、近くのマンションに引っ越してきた「谷 舞子」っていう女…スズキ歯科医院の院長と
つきあっているらしいわよ…

あの院長が奥さんに逃げられた原因って、彼女、知っているのかしら…SM変態趣味が原因な
のよ…S趣味のダンナに愛想をつかせて奥さん出て行ったらしいの…

えっ、SM知らないの…ほら、縛ったり、鞭で叩いたりすること…

…「谷 舞子」って女は、きっとMだわね…私ね、ふたりがSMホテルに入るところをたま
たま見かけたのよ…院長に肩なんて抱かれてね…彼女、なんとなくお高くとまっているけど、
あんな変態趣味があるなんて意外だわ…

わたしはどうかって… 私にそんな変態趣味なんてないわよ…それに、女を縛って悦ぶ男なん
て興味ないわ…



やっと梅雨が明け、夕暮れの空には、夏らしい雲がオレンジ色に染まり始めている。
夫とふたりでやりくりしていた小さな旅館は、夫が亡くなってから、私ひとりで、切り盛りし
てきたが、最近は常連のお客だけに限っている。

昔は、かわいい若女将なんて呼ばれていたが、今では常連客も私のことをユリコオバサンなん
て呼ぶ。まだ四十五歳なのに、私はいつのときも年齢よりも老けて見える。

夫が残した財産で、食べるには困らないが、子供がいないので、代々続いてきた旅館も、おそ
らく私の代で閉じることになりそうだ。


…今夜は泊まり客がいないから、久しぶりの早めのお風呂だわ…

浴室のガラス窓の中に、自分の裸体がぼんやりと浮かび上がる。それにしても、昼間に近所の
奥さんたちとドーナツ屋で夢中で話をしていたら、気がつかないあいだに、ドーナツを五つも
食べてしまったわ…また、太ったかしら…。


ふと、色褪せた夫の顔を思い浮かべる。夫が亡くなってから、もう十年か…私が三十五歳の
ときだから、時間がたつのは早いものだわ…。

知り合いの紹介で、夫とお見合い結婚したが、五年目に夫は不慮の交通事故で亡くなったから、
夫との夫婦生活もあまり記憶に残るものはない。記憶に残るものがないから、今でも、男性と
気軽につきあえるような気がした。再婚を考える相手もいたが、惚れっぽくて飽きっぽい自分
の性格はわかっている。



胸元のすそ野からゆったりと弛みをもった乳房が、淡い湯煙の中で霞み、私の中の熟れきった
女を滲みださせている。

私は自分の乳房を掌で包み込むようにして掬い上げる。髪がほつれるように胸もとに張りつい
ている。ゆたかすぎるほどの乳房と尖った乳頭が、なぜか最近、艶やかさを増しているような
気がした。その理由はわかっている…。

SM変態趣味か… 昼間に自分が喋った言葉に、思わず苦笑する。



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