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花火
【女性向け 官能小説】

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花火大会の夜-2

「葵、飲み物何にする?」

途中コンビニで飲み物を調達するのもいつものことだ。

「…ビール」

「ビールってオマエ飲めんのかよ?」

「…わかんない…けど、ビール。疲れちゃったからここに座ってていい?」

「あぁ。大丈夫か?」

「うん…」

仕方なく一人でコンビニに入り、ビールとカクテルを適当に、それに水と葵の好きな紅茶のペットボトルを買った。
飲み会とかでもアルコールを飲んでいる葵を見たことがない。
でもこれで買わずに出たら何を言われるかわからない。
コンビニを出てベンチを見ると、コンビニに入ったときと同じ状態で、うつむいた葵が座っている。

「高台まで行かないで、ウチで見るか?」

「うん…ごめんね、いい?」

「あぁ、そのほうが涼しいし、静かだし」

「ごめん…」

「気にすんなって。行くぞ。立てるか?」

差し出したオレの手を、少しためらいながら掴んで立ち上がる。

「あ…パパとママは?」

「毎年恒例温泉デートだと」

「相変わらず仲良しだね」

「まぁな。マリコさんは?」

「夜勤。浴衣着せてくれたあと仕事行った」

「そっか」

小学生くらいまでは看護師のマリコさんが夜勤の日は葵はウチに泊まっていた。
そのせいだろうか。オレらは幼馴染というより兄妹のように育った。
オレの両親のことを葵はパパ・ママと呼び、両親は実の息子より葵のほうが可愛いと公言して憚らない。
マリコさんは「葵のママ」とか「おばちゃん」とか呼ばれるのを嫌うので、オレも、実の娘の葵でさえも「マリコさん」と呼んでいるのだが。

「マリコさん、毎年花火の時は夜勤じゃね?」

「若い看護師さんたちが休み取りたがるから、そういう時こそオバサンは働かなきゃって言ってた」

「オバサンって、あのマリコさんが自分のことそんな風に言ったのか?」

「うん。私もそれ聞いたときはさすがに驚いた」

ようやく葵が少しだけ笑った頃、花火が上がる少し前にオレの部屋にたどり着いた。
エコじゃないな、と思いつつも暑さに耐え切れずに冷房を弱くつけたままのオレの部屋は快適だ。
葵は当たり前のようにベッドを背もたれにして座る。

「ベランダ、出るか?」

「ううん、ここでいい」

窓越しだが見えないことはないし、飲み食いするにはちょうどいい。
買ってきた食べ物と飲み物をテーブルの上に並べる。
普段は何も言わなくても手伝う葵だが、今日はぼんやりと窓の外を見ているだけだ。

「ほんとに飲むのか?」

「ダメ?」

ビールを手にした葵にそう尋ねると上目遣いでそう聞き返された。

「ダメじゃないけど飲めるのかよ?」

「わかんない。飲めなかったら陽平が飲めばいいじゃない」

「わかったよ。でも面倒だからコップとか持ってこないぞ」

「いいよ、そんなの」

ビールのプルタブを開けて葵に手渡し、オレは甘めのサワーの缶を開けた。
残りの飲み物は自分の部屋の小さな冷蔵庫にしまう。
缶を差し出すと、静かに缶を合わせてくる。
一口含んだだけで、葵の眉間にシワが寄り、無言で缶を差し出してきた。

「だから言ったろ?こっちのほうがまだ飲みやすいよ」

まだ口をつけていないサワーの缶と交換してやる。

「いつかはさ、これが美味しいと思えるようになるのかな?」

「さあな。でも無理に美味いと思うようにならなくてもいいんじゃね?」

「そうだね…あ、上がった」

少しだけ葵のテンションも上がった。
窓の向こうには大輪の花。
窓を閉めているせいか、外で見るより迫力はかけるけれど、それでも響く音。

「ほら、冷めないうちに食うぞ」

たぶんオレが手をつけなければ、葵はいつまでたっても箸を持たないだろう。
買ってきた焼きそばのふたをあけ、口に運ぶ様子を呆れ顔でみながらも、葵もたこ焼きのふたを開けた。

「陽平ってば、昔から花より団子だよね」

「それは花見だろ?」

「花火だって一緒じゃん。でも陽平の部屋からこんなに綺麗に見えるなんて予想外だったね」

「あぁ。これなら毎年外で見てたのがちょっとバカみたいだな」

「でも外のほうが雰囲気は楽しめたかな?…ごめんね、ワガママ言って」

「葵のワガママは今始まったことじゃねーよ」

葵から受け取ったビールに口をつける。
間接キスだよなぁ、これって。
ペットボトルの回し飲みも、皿に取り分けたりしないで一緒に食べるのも、昔からずっとだから何の違和感もないけれど。

「…聞かないんだね、さっきの」

たこ焼きをもてあましながら、葵が言う。
食欲、あんまりないんだろうか。

「さっきの?あぁ、店長だっけ?」

聞きたいさ。
でも聞けない、というか聞くのが怖いなんて、葵にはわからないだろう。
小中はもちろん、高校も一緒。
大学だって学科さえ違えど、同じで。
バイトだって同じところで働くんだと勝手に思っていたけれど、オレがえり好みしている間に葵が一人で見つけてきたのは、チェーン店のカフェのバイトだった。
口では、よかったじゃん、なんて言っているけれど実はものすごいショックだったなんて、葵には想像もつかないだろう。

「いろいろ仕事教えてくれてね。や、店長だからそれは当たり前なんだろうけど」

オレの言葉が、葵には話を促しているように取れたのだろう。
サワーを飲みながら、ぽつり、ぽつりと話し始めた。

「イケメンだったでしょ?若く見えるし」

「あぁ。確かにいい男だったな」

「告られたんだよね、入って1ヶ月くらいで」

「はぁ?だってどうみたって既婚者じゃん」

あの男の挙動不審っぷりが、やっと納得がいった。

「知らなかったの。さっき見るまで…バカみたいだよね」


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