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富子幻舞
【歴史物 官能小説】

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富子幻舞-16

「・・・分かりました。右京大夫殿のご厚意、ありがたくお受けいたします」



「かたじけのうございます。それでは・・・・」



富子の言葉を受けて再び一礼した勝元は、

箱の中の能面を両手で箱の中から取り上げる。


そして両手で能面を捧げもつようにしたまま、スゥッとその場で腰を上げると、
摺り足のまま富子の眼前にまで歩を進めた。



勝元が自分との距離を縮めたことに、富子自身の中に相手を警戒する気持ちが沸いてこなかった。

普通ならば御台所としての立場から人との対面には終始気を配ってはいたのだが、

今回のような流れるがごとき勝元の自然の所作の前では全てが違和感なく感じられたのである。


能面を目線の位置で捧げ持ったままの勝元が、
立ち上がる時と同様にふわりと畳の上に片膝をついていた。


ここで富子は、
間近で自分を見つめてくる勝元の瞳の中に通常ならざる光が点っていることに気づいた。


後に様々な経験を経た後の富子ならば、
その光の意味を体験的に悟っていただろう。


男が女を欲する、
欲望の光だと―――――


次の瞬間、


―――コロン・・・・


「 !!! 」




勝元の手の中にあった翁の能面が畳の上に鈍い音をたてて転がった時、

富子の身体は勝元の両腕によって抱きかかえられていた。


ほんの一瞬の出来事。


横抱きの状態になっている富子の眼前に勝元の顔があった。


彼の吐息が富子の頬や唇に触れ、息を感じた場所が自然と熱を帯びてくる。


自分の瞳の中を覗きこんでくる勝元の視線に釘付けになり、目を逸らすことができない。


自分の身体を抱える勝元の無駄な肉のない武人の腕に何故か身体が、そして下半身がほんのりと熱を帯びてきた。




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