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富子幻舞
【歴史物 官能小説】

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富子幻舞-11

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「―――――見事見事!!流石は右京大夫、我ながら見惚れてしまったわ」



舞い踊った後、将軍の面前で面をとった状態で平伏している演者・細川勝元に対し、

義政は手を叩き感嘆の声を上げながら、彼のことを右京大夫という官位で呼んでいた。



「今だ若輩の身でございますが、御所様からかようにもお褒めの言葉をいただくなど、
この細川右京大夫、身に余る光栄にございます」



「良い良い、そなたの舞はそれだけの価値があったわ・・・さ、面を上げよ。盃をつかわそうぞ」



「ははっ・・・・・」










(・・・あれが、右京大夫殿?)



夫の傍らにあって、顔を上げた勝元が夫から直接盃に酒をなみなみとついでいるのを見て、

富子は自分の記憶の中にいる勝元像と目の前の本人の顔を見て、

内心驚きを禁じ得なかった。



(・・・・御所でみかける右京大夫殿はもっと無表情で、笑ってもどこか・・・
そう、自分の感情を面に出すようなことはなかったのだけど・・・・)



今富子の眼前にいる勝元は、
汗をかきつつも平然としているとはいえ、

普段表情を覆っている
“何か”が取り払われた状態。

素のままの勝元の顔が露になっていると言った方が良いのだろうか。




(・・・私より10歳年長、御所様と年の差はないのに幕政を自在に切り回し、
冷徹一辺倒かと思いきや このように猿楽においても見事な舞を披露できる実力を持っておられる・・・)

いけないこととは思っていながら、
政治を省みることなく酒と芸術のみに浸りきる夫の姿と比べてしまう。



勝元と義政。


対照的な2人が盃と瓶子を手にしている光景を見つめながら、

いつしか富子の胸は何かに鷲掴みにされた圧迫感と、えもしれぬ切なさで一杯になっていた。



心なしか頬はほんのりと赤く染まり、熱くなってきたように思える。




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