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氷炎の舞踏曲
【ファンタジー 官能小説】

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吸血姫のささやかな夢、についての記述。-6

 誘拐犯たちは縄で繋がれ、連行されていった。
 サーフィ達の乗った馬車は、今度は多数の騎士に囲まれ、無事に城内へと戻っていく。
「よくやった。サーフィ。」
 カーテンを閉めた馬車の中で、ようやく気を取り直したらしいカダムが、額の汗を拭った。
「ドレスも新調するがいい。褒美に好きなだけ買ってやろう。」
「ありがとうございます。ですが、もう十分に頂いて……」
 ふいに、ビクンとサーフィの身体がひきつった。
 指輪を何個もはめたカダムの手が、ドレスの胸元をまさぐっている。
 胸元の布も大きく切り裂かれていたが、被害は上布だけで、肌を完全に晒すような醜態にはなっていない。
 それでも一番厚い布が垂れ下がった事で、汗に濡れた下地が透けている。
 ふくらみ始めた胸の先が、わずかにツンと上向いているのまで、はっきりわかる。
「あっ。」
 気づいたとたん、羞恥にサーフィの顔が真っ赤になる。
 相手を壊滅させた後も、ひきつづき周囲への警戒に集中していたため、衣服まで気が回らなかった。
 あわてて隠そうとしたが、カダムはニヤニヤ笑って、手を引こうとはしない。先端を摘まんで引っ張られ、鋭い痛みに眉が寄る。
「……っ。」
 どんなに嫌でも、この男に逆らってはいけない。それは死の宣告と同じだ。
 サーフィは何も言わず、吐きそうなほどの気持ち悪さに耐えた。
 だが幸運にも、すぐに馬車が止まった。カダムが舌打ちをして手を離し、窓の外へ怒鳴る。
「なぜこんな所で止まる!」
「は、申し訳ございません。しかし……」
 恐縮した様子で、馬から降りた兵士が、囁いた。
「王妃様が、いらっしゃりましたので。」
 もう一度、今度はもっと苛立たしげにカダムは舌打ちをした。

「陛下の一大時とお聞きしましたので、急いでお出迎えにあがりました。」
 落ち着いた女性の声が、凛と響いた。
 数人の侍女に囲まれ、ひときわ豪奢に着飾った女性が、冷めた眼でカダムとサーフィを眺めている。彫りの深い卵形の美しい顔は、入念な化粧で更にあでやかさを増している。
 ロイヤルブルーのドレスに、真珠の長いネックレスを三重にかけた、この黒髪の女性が、王妃ソフィア……カダムの正妻だ。
 サーフィはあわてて馬車から降り、片手で胸元を隠したまま、ボロボロのドレスを広げて敬礼をする。
 それをチラリと見ただけで、何も言わずに王妃はカダムへと視線を戻した。 
「ご無事でなによりでございます。」
「あ、ああ。心配をかけたな」
 取り繕うような笑みを浮かべ、カダムも馬車から降りた。

 二年前に嫁いできたソフィア王妃は、大輪の黒バラを思わせる、気品に満ちた女性だ。
 まだ二十歳になったばかりだが、単に若さだけの美貌ではなく、堂々とした王妃としての風格と貫禄も備えている。
 遠方の国から、単身で人質も同然に嫁ぎ、夫からは政略結婚の駒としてしか見られていない姫……彼女は最初、そんな調子で、国民達から冷たく迎えられた。
 しかしそれで後宮に引きこもるほど、ソフィアはやわではなかった。
 無礼者には毅然とした態度をとるが、一方で無用に威張る事もせず、その聡明さと気高さ、カリスマ性を十二分に周囲に見せつけ、今では城内で確固たる地位を築き上げている。
 特に、侍女たちの多くは、彼女を崇拝しきっていた。

 彼女の実家であるイスパニラ国は、西南にある強力な軍事国家で、植民地を大陸のあちこちにもち、太陽の沈まない国とまで呼ばれる大国だ。
 カダムとしては、大国の姫だからこその政略結婚だったが、温室育ちと侮っていた妻が、予想以上にたくましいのを、苦々しくも思っているらしい。

 サーフィとしては、ソフィア王妃には複雑な心境を抱いている。
 個人的には、とても魅力的な女性だと、憧れている方だ。
 しかし、カダムはサーフィが十八歳になったら、護衛剣士としてだけでなく、愛人として扱うとも、公言していた。


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