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氷炎の舞踏曲
【ファンタジー 官能小説】

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東の女性についての記述-3

 ヘルマンは、今回の戦において、一般市民は決して攻撃しないように、きつく言い渡していた。
 それは慈悲から出たのではなく、その後の事を考えての事だ。
 王位の簒奪……しかも、王家ではなく臣下が起こた簒奪は、特に評判が悪い。
 難しいのは、王を殺すことよりも、その後の治世を安定させる事なのだ。
 呆れた事に、カダムの配下の将軍からは、王を捕らえたら見せしめとして、残虐な公開処刑にしたらどうか、という案も出た。
 そして、反対する民やはむかう兵は、その場で皆殺しにする……というのだ。
 ヘルマンは即座に却下した。
 そんな事をすれば、いずれは何百倍もの憎悪になって戻ってくる。
 それより、回りくどくても、時間と手をかけて国民を懐柔し、いずれは王が変わっても良かった……少なくとも悪くはならなかったと、民が自分で納得するように仕向けるべきだと、カダムに進言した。
 政治家としての知恵もあったカダムは、ヘルマンの主張に納得し、市民を極力巻き込まないようにとは命じた。
 ……しかし。
 あれほど厳しく言ったのに、市民にもかなりの被害が出ている。
 血の匂いと一方的な殺戮に、獣性を開放された兵達の仕業だった。
 国内で最強と称えられた国王親衛隊に面白いように勝ててしまってから、将軍たちの半数以上も、たがが外れてしまった。
 いたるところで強姦・略奪・無用な殺戮が繰り返された。
 何より、トップからしてこのザマとは……。
 子どもを人質にとり、母親を半殺しにして拉致するなど、誰が見ても最悪な行動だ。
 故国を贔屓する気はないが、フロッケンベルクの兵なら、あの程度の勝利に酔って統率が取れなくなるなど、ありえない。
 シシリーナ兵への評価を、もう三段階は下げ、彼らの猿並みの自制心でも覚えておけるように、丁寧に解りやすく教育しなおしてやらねばならない……。
 その猿達の主君を、冷めた横目で見ながら、ヘルマンは内心で冷めたため息をつく。
「ハハ……やっと手に入れた。この売女に復讐する日を、どれほど待った事か!」
 復讐の魔酒に酔うカダムは、喋りたくてたまらないらしい。
「俺は昔、使節団を率いて東の島へ赴いた事があった。その時に、この女を見初め、妻にしてやると言ったのだ。こいつは喜び、散々気のある素振りをみせながら、結局は城大工ごときの子を孕んだ!裏切り者の売女め!!」
 今の話が真実なら、彼女はとんでもない悪女だ。
 だがこれはあくまでもカダムがそう言っているだけだ。
 そして、この男が平気で都合よく話を捻じ曲げる性格なのを、ヘルマンは知っている。
 おおかた、彼女に横恋慕して、こっぴどくフラレただけだろう。
「俺の妻になれば、好きなだけ贅沢をさせてやったものを!愚かな女だ。そう思うだろう!?」
――なるほど、この女性は、男を見る目があったらしい。
 ヘルマンはそう思い、また何も言わなかった。
 彼の誇りは嘘をつかないこと。お世辞なんか、絶対に言いたくない。
 カダムは喉を震わせ、血走った眼で重傷の女性を睨む。
 床に落ちている、彼女の物とおぼしき、血に汚れた剣を踏みつけた。
 この辺りで一般的な両刃の剣ではなく、東の島で使われている『刀』というものだった。
「サーフィ……いくらお前が強かろうと、無駄だ。そんなバケモノに大金をかけて養ってやるのも、受け入れてやるのも、俺だけなのだからな!孤独の檻に、貴様を閉じ込めてやる。斬れぬものはないと言われたお前にも、この血の鎖だけは、壊せまい!!!」
 狂気じみた、歪んだ醜い執着心が、毒液の言葉になって、瀕死の女性へふりかけられる。
「生まれる娘の名前は、サーフィ。こいつと同じ名だ。」


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