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べっ甲飴
【女性向け 官能小説】

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べっ甲飴-4

 その日もいつものように彼女を往診して帰り支度をしていた。

 「先生は最近忙しいの?」

 彼女が僕に話しかけた。
 あまり僕が話さなくなったせいか、彼女もあまり話さなくなった。
 
 「ああ。僕はこの村で唯一の医者だからね」 

 「そう。そうよね・・・先生は忙しい方ですものね」

 彼女の顔が曇る。
 目を伏せてじっと何かに耐えるその顔。
 いつも笑っている桃子さんが僕に初めて見せた顔だった。

 「桃子さん?」

 そう問いかけたのがいけなかった。

 「先生、最近話さなくなった」

 ぽつりと桃子さんが言った。

 「先生、最近すぐに帰っちゃう。前はもっと話してくれた。私の話し聞いてくれた」

 大人だと思っていた彼女はやはりまだ子供だった。
 そう言って布団にくるまる彼女がとても愛おしかった。
 くるりと後ろを向いてすねているように見えるその姿に、自分の感情が抑えきれなくなりそうだった。

 桃子さんに添い寝してそのまま抱きついてしまいたい。

 「先生は私の事、嫌いになったの?」

 「いいや。そんなことないよ」

 「じゃあどうして?何で急に冷たくなったの?」

 「え?」

 「前は私の話し聞いてくれて、色んな事を知っているねって誉めてくれた」
 
 桃子さんは僕の知らないことをたくさん知っていた。
 花の名前や花言葉、お菓子の名前の由来。
 だから彼女の話しは聞いていてとても面白かった。

 「今は、仕事が忙しいって。先生の仕事何にも知らないけど、でも前は忙しくても一緒にいてくれたもん」

 仕事が忙しいなんていい訳だ。
 診療所にやってくる患者の大半は話し相手が欲しくてやってくる。
 診察室でお茶をして自分たちが言いたい事を言ったら帰ってしまう。
 僕の仕事は医者ではなく、誰かの話し相手だった。

 「それは・・・」

 「それは何?急に病人やけが人が出て忙しくなったから?それとも他の人の往診に時間がかかるから?そんなウソつかないで、最初から面倒くさくなったって言えばいいのに」
 
 泣き出しそうな声で時々鼻をすすりあげている。

 「どうしたんですか?いつもの桃子さんらしくないですよ」

 「いつもって何?先生の中で私ってどんな子なの?ただの患者?それとも手のかかるわがままな娘?」

 「桃子さん?」

 「先生なんて嫌い」

 布団でくぐもっていたが、桃子さんがぽつりとそう言った。

 嫌い。
 深い意味はないだろうが、僕にはキツイ一言だ。
 
 守るためにしてきたことが桃子さんを傷つけていた。
 
 部屋を出ていく僕に桃子さんが叫んだ。
 
 「やっぱり駄目!!」
 
 勢いよく布団をはいだ音がした。
 振り返る僕。
 
 そこにはいつも穏やかに笑う桃子さんとは別人の桃子さんがいた。
 上半身だけ起こした彼女の髪は少しだけぼさぼさで、胸は少しだけはだけていた。
 「嫌。待って」
 瞳が見開かれ、彼女は大きな涙をこぼしていた。
 切れ長の瞳が垂れ下がり不安な顔で僕を見ていた。

 「嘘よ!嘘!先生が嫌いなんて嘘。ごめんなさい、先生。帰らないで!」
 両手で顔を覆い彼女が泣き出してしまった。
  
 「私、先生が好きなの」

 好きなの−
 桃子さんが?僕を?

 でもそれは僕の好きとは違う。桃子さんの好きはただの好き。僕の好きは愛している。僕は桃子さんの全てが見たい。桃子さんの側にいて君の全部を手に入れたいんだよ。

 「桃子さん。ありがとう」

 きっと僕の笑顔はとてもぎこちないだろう。
 嫌いもキツイ一言だが、今の好きはもっとキツイ。
 彼女は意味も分からず言っているつもりだろうが、好きという言葉に勘違いしてしまう。彼女が僕の事を愛していると錯覚してしまう。

 「お願い先生、行かないで。私先生が好きなの。自分でもどうしようもないくらい先生が好きなの、本当よ。先生とずっと一緒にいたいの。だから帰らないで。お願いよ」

 そんなこと言われたらたいていの男は勘違いしてしまう。
 桃子さんの好きが僕と同じ愛していると違うのは分かっている。
 僕はとんでもない大バカ者だ。だけど、もしかしたらと期待してしまう。
 
 「私、先生になら何されてもいいよ?私もう子供じゃないよ?ほら見て?先生」
 
 肩から流れるように浴衣が滑るのを見た。
 浴衣の下にある白い膨らみに僕は思わずつばを飲み込んだ。

 「先生になら私の大事なもの全部あげる」
 
 血が体中を勢いよく流れ始める。
 歯止めはきなかかった。
 理性が壊れて、僕は桃子さんと1つになった。


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