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THANK YOU!!
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-8



「・・・拓斗」
「ん?・・って・・え?」
「合図。・・拓斗って、名前で呼ぶ。」
「え・・え。」

瑞稀に、初めて呼ばれた自分の名前に戸惑いと嬉しさがこみ上げてくる。
明らかに、後者が圧倒的な感情の主だが。
瑞稀は気づいていないようだが、秋乃やクラスメイトがいたら絶対冷やかされていただろう。
なぜなら。

「(やべえ・・嬉しすぎて顔ニヤける・・!)」

自分でも自覚出来るくらい、今の拓斗の顔はなんとまあ情けなかった。
でも、それでも、引き締めようだなんて思わない。
本当に嬉しいのだから。

なかなか返事をしてくれない拓斗に、まずいことでも言ったかなと不安になった瑞稀は拓斗の顔を覗き込んだ。

「わっ!!」
「・・ダメ?合図。」
「あ、いや、OK・・」


瑞稀に聞かれて、慌てて了解の旨を伝える拓斗。
そこで自分が浮かれすぎていて瑞稀をほっといたことに気づいた。

「じゃあ、温もり・・欲しくなったら、拓斗って呼ぶ・・」
「あぁ・・」

ふたりして顔を真っ赤にさせながらも笑いあった。
拓斗は、本当は合図としてじゃなく日常で呼んで欲しいという願いを押さえ込んだ。
そんな拓斗の気持ちなど知らない(分からない)瑞稀は、
これからは少しだけ甘えられることに喜んでいた。


その様子を、フェンス越しに見ていたのは親友と幼馴染みだった。
二人は、上手くいったことにガッツポーズをして喜んだが、折角だからどっちか(主に拓斗)がさっさと告白しろよともぼやいた。
微妙な関係でいられる方が周りとしては迷惑な話でもあるからだ。

「ま、あの二人ならなんとかなるか。」
「そーだねぇ。てか、卒業するまで告白しなさそー」
「あー・・。十二分にあるな、それ」

卒業まで、あと半年くらいはあるのだが、もうすでにそこで告白することは無いと考えた二人は、あと半年こんな微妙な関係が続く事にため息をつきつつも、上手くいくことを願った。


そして、もう一人。
瑞稀たちが入ってきた音楽室側の屋上入口で佇んでいた。
拓斗に、純粋な恋愛感情を向ける少女。
だが、その純粋故に一歩外れてしまった。
瑞稀を、嫉妬どころではない憎しみの目で睨む。
その手はワナワナと震えていて、止まることを知らなかった。

自分から想い人を盗っていった少女をメチャクチャにしてやりたい。
自分に振り返ってくれない想い人をココロの奥まで傷つけてやりたい。

そんな黒い感情が、沸き起こった。
ポケットから取り出すのは、細身のカッターナイフ。
それを、チキチキと音を立てて刃を引き出す。

まるで、自分の奥にしまい込んだ黒い醜い感情を引き出すかのように・・。


そして、それを持って屋上に飛び出した・・。



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