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偽りのデッサン
【熟女/人妻 官能小説】

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第19話 絆-1

その日の晩、ダイニングルームで、政俊も含めた三人で鍋を囲んでいた。
政俊は、翔太の帰省する日だけは、決まって早めに帰宅するのだ。
溺愛する息子が親元を離れても、いつまでも親馬鹿な一面が垣間見えるのだった。

「どうだ翔太・・・このお肉美味いだろ?・・・・・。」

政俊が、翔太のグラスにビールを注ぎながら話した。

「うん・・・最高だよ・・・・・。口の中で、あっと言う間に消えるし・・・何よりも甘味が凄くあるよ・・・・・。」
「これ、凄く高かったんじゃない?・・・無理したんじゃないの?・・・・・・。」

「ふふ・・・父さんを甘く見ちゃいけないなあ・・・父さんが誰だか分かってるのか?・・おい?・・・・・。」

政俊は、少しほろ酔い気分に調子良く話した。

「あなたもしかして・・・またやったの?・・・・・。」

睦美は、政俊のグラスにビールを注ぎながら、二人の会話に割り込むように、怪訝そうな顔で話した。

「お前も、いちいちうるさいな〜・・・俺が良いって言ったら、どんな事でも良いってなるんだよ・・・・・。お前は、誰の女房だか分かってんのか?・・・・・。」

睦美は、豪語する政俊の口から、だいたい察しはついていた。
自分の役職の権限を生かして、デパート内にあるテナントの老舗の店から、タダで譲り受けた物だと思われる。

「本当に・・・以前、本店の方から注意されたばかりでしょう?・・・・・。今度見付かったら、どうなるか・・・・・。」

以前にも、翔太の誕生日にと家電製品をタダで送った時、本店の方に漏れて厳重注意を受けた経歴があった。
睦美は、それを目の当たりにして心配したのだった。

「たく・・・せっかく翔太が帰ってきてるのに、お前も、つまんね〜女だな〜・・・・・。なあ翔太・・・カミさん選ぶときは、慎重になれよ?・・・・・。じゃないと・・・後で絶対後悔するからな・・・ははは・・・・・。」

「あなた、少し呑み過ぎよ・・・・・。」

政俊は、睦美に対して皮肉交じりに罵倒しているが、翔太への冷めた夫婦関係を悟られない為でもあった。
睦美も、それは大体察しており、政俊の罵倒に対しても、夫婦間に良くある戯言のように返していた。
お互い翔太を前にして、普段よりもコミュニケーションを取る感じだった。

「でも、父さん・・・あ〜見えても母さんは、父さんの事を気に掛けてるんだよ・・・・・。だから・・・髪型だって父さんの事を意識して何んだよ・・・きっと・・・・・。なあ母さん?・・・だろ?・・・・・。」

「えっ・・・ま・・・まあ・・・・・。もう・・・何言ってんのよ・・・・・・。」

翔太は、悪びれる事無く、睦美の髪型の事に触れたが、二人は困惑していた。
睦美の髪型に関しては、政俊は気づいていても、一度も触れた事は無かった。
翔太が初めて触れる事により、リアクションを求める感じで、お互い気まずい感じだった。
それだけ、夫婦間が冷めている証拠でもあった。
睦美に関しては、慶の気を惹く為でもあり、後ろめたさもあった。

「なあ翔太・・・お前来年は卒業だろ?・・・・・。そろそろ進路とか決まったのか?・・・・・。」

政俊は分が悪く、話題を変えようと翔太の進路の事に触れた。

「まあ・・・ぼちぼちと良いたいところだけど・・・正直まだ何にも考えてないね・・・・・。何だろう・・・本当にやりたい事が見付からないと言うか・・・とりあえず自分が何を目指しているのか、はっきり決めとかないと中々先へはね・・・・・。」

「だったら、弁護士はどうだ?・・・・・。父さんいつも言ってるだろ・・・最近の不安定な経済傾向にも流されないし、何よりもこんな時代だからこそ必要とされてる・・・・・・。お前は、けっこう正義感もあるから、向いてると思ってるんだがな?・・・・・・・。」

「ちょっと勘弁してくれよ・・・だって俺は理系だぜ?・・・・・・。今さら弁護士とか、勘弁してくれよ父さん・・・・・。」

「馬鹿・・・最近は、理系も多いんだぞ?・・・・・。分野によっては、理系出身の方が重宝される事もあるんだからな・・・・・。翔太なら、今から一生懸命勉強すれば間に合うって・・・・・。」

「駄目だこりゃ・・・父さんかなり酔ってるよ・・・・・。母さん何とかしてよ・・・ははは・・・・・。」

政俊が、翔太に弁護士を勧めるのは、やはり自分の仕事の近況の現れからだろう。
他にも、公務員などの景気の変動に左右されない職業を、翔太に望んでいた。
その会話を耳にした睦美は、親馬鹿と思いながらも、息子の将来を暗示する、一人の親としての政俊を尊敬する一面を垣間見ていた。
こうして、翔太がいる時だけでも、円満な家庭がある事を、睦美は気付かされるのだった。
その中で慶の事を思うと、身を引くのが無難なような気にもさせられた。
睦美は、しばらく二人の会話を黙って聞き入るように晩酌すると、夜は次第に更けて行った。

ひと気の無い、ダイニングルームのキッチン。
少し照明の落とした暗い室内で、睦美は一人で後片付けに追われていた。
翔太は、高校時代の友人と遊びに出掛けていて、政俊の方は、次の日の仕事に備えてすでに床についていた。
先ほどとは打って変り、静まり返った室内で洗い物をする睦美の表情は、どこか疲れていた。
前日の慶の事からと、色々な諸事情が重なっていたからだろう。


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