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『STEEL DUST GLAVES』
【アクション その他小説】

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『STEEL DUST GLAVES』人形舞刀篇-3

「ひ、え」
怯える呉を尻目に、白髪は自ら切り裂いた扉から悠然と奥へと進んでいく。
俺の仕事は客の応答までだ。
一目見ただけで呉は得心した、あれは人間じゃないと。
誰かは知らんが、白を狙っているのだろう。
巻き込まれるのはごめんこうむる。
呉は今日のあがりの札束を退職金として手に、雨降る夜の街へ駆け出した。

人形達のもう一つの役割。それは白の手足となって海外のシンジケートへ交渉に行く役割だ。彼の忠実な部下とは、彼の所有する愛玩用機械人形に他ならない。
そして、驚嘆すべきはその人形達全てに白家四十八掌が教え込まれているという辺りだ。
普通の人形ならば形だけは模倣できても、その微細な動き、極深までは模倣できない。
然し、白の自動人形にはそれが可能なのだ。
玲は苦戦していた。なにしろ数が多すぎる。
客の数だけその需要が存在する。白人、黒人、東洋人、幼女、少女、壮年、ありとあらゆる要望に”桃源郷”は出来る限り答えてきた。その数、総勢108体。そして、そのすべてが白と同等の能力を持つ人形なのだ。
玲は傷付きながらも流れるように切り捨てて行く。
その姿、まさに絢爛舞踏。
残り、89体。
残り、75体。
残り、68体。
残り、43体。
残り、32体。
残り、21体。
残り、6体。
残りの六体のうち一体は白から直接魂魄転写された、特別性だ。
最後の砦の如く、奥の貴賓室を護るように立つ。


魂というものが存在するならばそれは何処にあるか、
脳だ。
サイバネティック技師はニューロンネットワークにおける電気的応酬こそが人間の魂を形成するものだと断じた。その理論を基に、擬似脳神経シナプスに電子情報を転写し、人格の複製を為すことに成功した。しかし、それは複写する人間に多大な負担をかける。脳へのスキャニングは大量のシナプス組織を高確率で破壊する。白はその危険性を犯し一体の生体自動人形に部分的な記憶を転写した。一体から六体、六体から十二体、十二体から二十四体。その様に増え続けた桃源郷の人形達は、おぞましくも白の分身といえる。

「「「「「「やあ、よくきたね、玲」」」」」」

六つの少女の顔が玲に対して妖艶に笑んだ。
鉄鞭、三節棍、鉄扇、青龍刀、小太刀、倭刀。
其々六つの武器が玲に対して牙を剥く。
玲は地を蹴り、舞うように避ける。
鉄鞭が意思を持つ蛇の様に、彼の姿を追い掛ける。
伸縮自在鞭、”雷公”。
玲の肩口を、皮膚を切り裂き、肉を焼く。
僅かに苦痛に歪んだ玲の表情を見て、鞭持つ人形が唇を舐める。
「いいわ、もっとその顔を苦痛に歪ませて」
肉の焼けた嫌な臭いが四散する。
間髪入れずに三節棍、”鎧百足”が左腕から。
倭刀、“狂骨”が右腕から。
青龍刀、“黒鵺”が正面から切り裂かんと襲う。
そして、それがすべて打ち落とされた。
玲ではない。
「「「裏切るか――――――――、フランチェスカ!!!」」」

人形達が激昂する。その視線が向かう先、それもまた人形。
黄の連れた自動人形、意匠ラインフォードの作。
名を―――――――――“蒼瞳のフランチェスカ”。
虚ろな蒼き瞳は光を宿し、黙して語らず。
ただ今は亡き黄の愛刀を構え、玲を護るようにして立つ。
小太刀、“式童子”を持つ人形が襲い掛かる。
剣が奔る。


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