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『STEEL DUST GLAVES』
【アクション その他小説】

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『STEEL DUST GLAVES』修鬼来到篇-1

降り頻る酸性の雨が、ネオン輝く街を濡らしていた。
その街外れ。遺法建築の果てに瓦礫に埋もれた”旧九龍城地区”。
そこを照らすネオンの光、朧げに輪郭を映す三つの影があった。
対峙し合う長身長躯の男が二人、それを見守る女性が一人。
長身長躯の男、ひとりは黒い外套の青年。東洋人だ。身体には刀剣と思しき傷を無数に受けている。その幾つかは傍目からでも致命傷と見て取れた。
呼吸が浅い。
本人も気付いている事だろうが、それは彼自身の死期が近いことを示していた。
地の泥に跪き、瀕死ながらも未だ怯まぬ眼光でもうひとつの影を睨む。
外套の男、その視線の先。
彼よりも、やや年長だろうか。これもまた東洋人然としているが、その頭髪と肌は雪の様に白く、頬は窪み、”幽鬼”と呼ぶに相応しい姿を表していた。
手には一振りの白刃。雨に濡れた刃紋を描く、しなやかな刀身だ。柄には様々な彫り細工が施されていた形跡がある。然しそれは幾多の歳月を経て磨り減り、虚しくその跡を残すのみだ。名だたる意匠の作ではないが、無銘ながらも名刀と呼べる代物だろう。
その刃先は、眼前の青年へと向けられている。
そして、女性。幼さを残すその顔、無機質さを残すその顔は心得ている者ならば一目で看破するだろう。身に僅かな有機器官を有しているが、彼女は人ではない。愛玩用機械人形。
彼女はいわば現在のサイバネティック技術と生体機械工学の集大成であるといっても過言ではない。或る華僑の男が亡くなった娘に似せて依頼したそれは、独逸の名立たる人形師に依って製造された、試験的な試みを搭載する特別な人形であった。彼女は光を宿さぬ虚ろな瞳で、眼前の死闘をなんの表情も見せずただじっと眺めていた。何の意図か、青年が引き連れてきたのだ。

「何故」
青年は怒りに打ち震えた声を挙げる。
「何故、師父を裏切った」
その言葉に幽鬼の、その能面の顔が僅かに歪んだ。
いや笑っている、つもりなのだろう。
もう長らく笑うことを忘れてしまったという然だ。
そして、その実。その通りなのである。
「裏切った」
嘲笑。声だけが笑んでいた。
「私は裏切ったつもりなど毛頭無いぞ、黄」
李黄文の顔が一層の憎しみで歪んだ。
「なん・・・だと・・・・・・」
「師父の教えられた通りに考え、行動した結果が”裏切り”という結果になったまでだ」
抑揚の無い笑い声が、黄の憎しみを、その悲しみを更に駆り立てる。
「何が、何があったというのだ・・・玲哥哥」
三年という歳月が、此処まで人を変えるものだろうか。
よく笑う人だった、よく泣く人だった。
仁義に厚く、誰からも尊敬される無頼の漢だった。
確かに、変わるだけの出来事はあった。だが、
「もう、何も言うまい」
黄は泥の中に浸かった手を握り締めた。
泥の中に隠れていた一振りの刀が姿を表す。
対峙する男、玲朱紋の持つ代物と同じ代物だ。
その刀を杖代わりによろよろと立ち上がる。
構えた。
「」
互いに、言葉は無い。
せめて、一刺をと黄は思う。
規則的な呼吸を繰り返し、丹田に力を込める。
瀕死の身体に、臓腑を巡って気脈が、全細胞が活性化する。

内功。
中国武術が産み出した、人体気脈に依る干渉操作。
万物に流れる気脈を、己の気脈を以って掌握するという驚嘆の業。
施せば己の肉体は鋼の硬度を持ち、握る拳はどんなに洗練された武器をも軽く凌駕する。
駆ければ駿足、跳べば風に飛ばされた羽毛の如く宙に舞う。
触れるものは性質を変化させ、紙は鋭利な刃に、布は銃弾を弾く鋼鉄の盾と化す。
まして、元より人に致命傷を与える凶器であれば況やそれは

―――――――――殺戮の芸術品(artofwar)。

刹那に痛みは消え、意識は冴える。
しかしそれは命の灯火が消える間際の、最後のささやかな抵抗に過ぎない。
痴れたこと、いずれは消える命。
鞘鳴り、白刃が軌跡を描く。
四方八方からの高速の応酬。


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