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「カオル」
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カオルE-6

 塾を終えた生徒逹の長い一日が終わった。真由美も酷く疲れた様子だ。ひとみとの一件で、何時も以上のダメージを負っていた。
「帰って早めに休みたい」と思ったが、今日は薫の練習日だから、家族が揃うのは遅い時刻になる。かといって、自分一人で済ますのも気が引けた。

(参ったなあ……)

 荷物を仕舞い終わり、鞄を背中に背負った。肩に掛かるベルトが何時もより食い込む。真由美は、鈍い足取りで教室を出ようとした。並んで歩くひとみが話し掛けてきた。一応、相槌を打ったり、笑顔で受け答えを繰り返すが気持ちは萎えていた。

「……じゃあ、また明日」

 分かれ際、帰ろうとする真由美を、ひとみの声が立ち止まらせる。

「──あんたの家って、どの辺り?」

 不思議に思った。何故、今頃になってという気持ちが芽生えた。

「知らなかったっけ?」
「知らないわ。あの、横断歩道の近く?」
「そうよ。あれを渡って、真っ直ぐ100メートル。煉瓦色の屋根が目印よ」
「分かったわ。ありがとう」

 二人は分かれた。
 これが、どんな結果をもたらすのか、真由美は未だ知る由もなかった。





「もういっちょこーーい!」

 子供逹の勇ましい声とボールの打撃音、それに、床を擦る靴音が体育館に響く。時折、親や監督の叫び声が混じっている。わが子の熱気溢れるプレイを見て、親逹も思わず身をよじっていた。ゲームに入り込み過ぎて、自分も参加しているような錯覚に陥っていた。

「何をやってるのよ!」

 須美江もまた、他の親と同様に子供への叱咤を繰り広げる。
 未だ、後衛だけの試合参加だが、最初の頃に比べてずいぶんと動きが良くなった。そうなれば、我が子の更なる活躍を願うのが親の常である。
 だが、やられる子供は堪ったもんじゃない。試合中ともなれば、集中することが最も大事なのに、監督のように名指しで指導を繰り返されては、集中力を保つのが大変だ。

「集中ゥ、集中ッ!」

 監督の座間は、親逹の行動に無頓着だ。逆に子供逹を叱りつける。大会に出ればこんな物じゃない。会場の観客もそうだが、相手チームからの野次もある。そんな平常心を保つのも困難な条件でも、集中出来るように日頃から鍛えているわけだ。

 甲高い笛の音が鳴った。
 相手チームからサーブか打ち込まれた。薫は右の後衛でサーブカットする。

「はい!」

 アンダーで上げたボールは、若干、左に流れた。セッターが素早くボールの下に入り、オーバートスを上げた。
 ネット向こうの前衛二人が、ボールを追った。ネット数センチ手前で、両手を垂直に上げてジャンプした。
 打ち込んだボールがブロックされて戻ってきた。取りにいったセッターが、ボールを弾いた。ボールは、コートの外へと流れた。


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