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「こんな日は部屋を出ようよ」
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「こんな日は部屋を出ようよ」前編-7

「ちょ、ちょっとごめん……」

 わずか、30分あまりで僕は我慢出来なくなり、ベランダへと続く窓を開けた。
 隣家からの薄明かりが照していた。 夜の外気が、肌寒く感じられた。
 ポケットから煙草を取り出し火を点けた。 ひと口、ふた口と吸っていると、頭の中が緩んでいくような感覚になった。
 気持ちが楽になった。
 明かりのない暗闇に目を凝らして、僕は自問自答した。

(こんな……変態じゃないか)

 最初は軽い気持ちだったとは言え、今の自分は、家庭教師としての信頼を得ている。
 ルリだって、そんな僕だから、何も言わずに教わっているはずだ。
 なのに今、自分が行っているのは、それらに叛く行為だ。
 しかも、解っていながら、自制が利かない。

 これではキチ〇イだ。
 本能の赴くまま、倫理観もなく行動を起こす危ない人だ。
 こんな事をこれからも続けていけば、何れ、周りが知ることになる。
 そんな事になれば、僕は一生、そのイメージから逃れることが出来ないだろう。

 どちらが良いかなんて、天秤に掛けるまでもない。

(当たり前だな……)

 僕は、携帯灰皿に煙草を入れてポケットに仕舞った。
 ベランダから中に戻ろうとして、部屋の明かりが漏れているのに気づいた。
 視線の先にはルリがいて、此方を窺っていた。
 急に出て行った事に、異様さを感じたのだろう。 恥部を晒したように恥ずかしい。
 僕は、頭の中で言い訳を搾り出しながら部屋に戻った。

「その……急に出て行って驚いたろう。 と、突然、煙草を吸いたくなってさ」

 ──重要な嘘を付く時、人は饒舌になる。
 それは本当の事だと、僕は身を持って知った。
 ルリは唯、此方の方を見ているだけなのに、僕は早口で言い訳を重ねていた。

「──身体に悪いのは解ってるんだけどね。 精神安定剤みたいな物なんだ」

 冷然とした眼が、此方を見つめている。 僕はさらに嘘を付く。

「そうですか……」

 言い訳が終わると、ルリはそれだけ言って、また机に向かった。
 部屋の奥に椅子を動かした。 ゆっくりと、深く呼吸を繰り返した。
 さっきまで夜の外気に当たっていたのに、掌にはじっとりと汗をかいていた。






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