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眠れない妻たちの春物語
【SM 官能小説】

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眠れない妻たちの春物語(第三話)-8

洗濯物を干し終わった私は、エプロンのポケットから、マサキから送られてきたあのときの写真
を取り出す。

彼が肩を抱いた女性が髪に差したシャクナゲの花びらをじっと見つめる。そのとき私は、自分が
ずっと忘れ去っていたものを、ふと思い出すことができたような気がした。

マサキと結婚した頃、私の髪にも、彼が赤いシャクナゲの花を差してくれたことがあったことを
遠い記憶の中から静かにたぐり寄せる。

あのころ、私が、決して気がつくことがなかったマサキの眩しさの向こう側にあったもの…
それは、マサキの大きさと優しさだったのだ。そして、いつのまにか私が忘れ去っていた大切な
自分自身だった…。



マサキは、もういない…。

彼の妻となった女性が、マサキを失い、どれほど大きな悲しみに打ちひしがれているのか、私は
心を深く痛める。でも、あの頃、マサキが抱き続けたささやかな幸せの意味を、マサキがいなく
なって、私はやっと理解できたような気がする。


私は小さく千切った写真を掌にのせ、急に吹いてきた乾いた風にかざす。紙吹雪のように宙に舞
い上がった写真の切れ端が、遠くに運ばれていく。


そのとき、瞼の中がかすかに潤んできた私は、五月の青い空に向かって、深いため息をついた…。



―――


エピローグ…

これで「眠れない妻たちの春物語」は終わる。

冬の終わり頃から、春を待ちこがれるように書き始めた物語だったが、気がついたときはすでに
新緑が眩しい五月になっていた。

かけがえのない愛を夢見る男たちの陰で、愛の残滓を彷徨いながら追い求める妻たち…その三人
の妻たちの陰に私自身が見え隠れする。

ふと、私は色褪せた自分の心のアルバムを開く。浮かんでくるのは、三人の男たちの愛が刻まれ
た花々だった。クロッカス、ハナミズキ、シャクナゲ…その花々の匂いが、今に流されていく私
と過去を振り返る私を優しく包み込む。


そして、かけがえのない愛に充たされた男たちの眩しい空は、おおらかな五月の陽光とともに
私をそっと抱きしめてくれそうな気がした…。


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