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眠れない妻たちの春物語
【SM 官能小説】

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眠れない妻たちの春物語(第三話)-7

私はマサキに抱かれた日に、デリヘルをやめた。その一年後、私のもとに届いた一枚の写真は、
ネパールのカトマンズから送られてきたものだった。

…こちらで知り合った女性と結婚することになりました…

その写真のうらには、懐かしいマサキの文字が綴られていた。


美しい女性と並んで撮ったマサキの写真…彼が肩をだいた小柄の女性は、飴色の艶やかな肌をし
た素敵な女性だった。ふたりは、蒼穹に美しく生えあがる、白い雪に抱かれたヒマラヤを背景に、
色鮮やかなシャクナゲの花に祝福されるように囲まれていた。

髪に赤いシャクナゲの花を差したマサキの結婚相手の女性のはにかんだような笑顔の中に、私は
白く雄々しいヒマラヤに祝福された、どこまでも澄みきった幸せを感じた。そして、マサキの瞳
もまた、あふれる輝きで充たされ、壮大な風景のなかにみなぎっていた。

その写真を手にしたとき、私は、ふと自分の心に冷ややかなすきま風を感じたような気がした。


 ………


五月の暖かな日曜日の朝、パジャマ姿の夫は、リビングであくびをしながらゴルフの中継に見入
っている。マンションのバルコニーで洗濯物を干しながら見上げた空は、どこまでも青く澄みき
り、私の視線を吸い込むように遥か遠くへ運んでいく。


マサキのあの写真を受け取ってから、三年がたつ…。

青い空が、なぜか眩しすぎると感じたとき、やっぱりマサキの瞳を想い出した。その理由が自分
でもわからなかった。眩しさを感じようとすればするほど、自分がわからなくなった。夫という
存在が霞み、今もまだマサキの遠い追憶に浸ろうとする自分を強く感じた。


今年の冬のことだった…。

あの日は、とても寒い朝だった。夫が出かけたあと、パートに出かける準備をしていた私は、
テーブルの上にある新聞の中の小さな記事をふと目にした…。思わず新聞を手にした私の膝が、
小刻みに震えだした…。


その記事は…

マサキが、ヒマラヤへの単独登頂をめざしていた途中で遭難し、遺体で発見されたことを伝えて
いた…。


しばらく茫然とし、がっくりと床に膝をついた私は、顔を手で覆うように泣き崩れた…。
涙が次から次へと溢れ、頬をぐっしょりと濡らした。わからなかった…止めどもなく流れ続ける
涙の意味が自分にわからないほど、泣き続けたのだった…。




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