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眠れない妻たちの春物語
【SM 官能小説】

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眠れない妻たちの春物語(第一話)-1

まさか…

ホテルの部屋にある大画面のテレビに映し出された映像が、飴色の淡い灯りの中に妖しく浮かび
あがる…。

赤い絨毯の上で、烈しく絡み合う全裸の男と女…男は烈しく尻を動かし、女を組みしだいている。
ただ、長い黒髪を振り乱した女は、黒い縄で痛々しく胸部を縛られていた。縄で幾重にも喰い緊
められた女の豊満な白い乳房は、男の唇で捏ねられ、ねっとりとした情感を湛えながら、ぷるぷ
ると艶やかな乳首の先端を揺らしていた。


「カズエさんは、こういうビデオはお嫌いですか…」

ムラタさんは、ベッドの中で私を背後から抱き寄せ、スリップの上から、乳房を柔らかく揉みし
だいている。首筋に彼の湿り気をもった唇が這い、私の肩が小刻みな呼吸を始めていた。

ムラタさんのからだの温もりに包まれた私は、首筋をのけ反らせながらも、テレビに映し出され
た映像だけを、食い入るように見つめていた。

ムラタさんの唇が私の背中の窪みを滑らかに這い、腰のくびれから臀部にかけて、スリップの
上を吸いつくように撫でる。やがて、ショーツに包まれた臀部の割れ目をなぞりながら、太腿の
内側へとゆるやかに這ってくる。


そして、ムラタさんにスリップを剥ぎ取られ、ショーツを足先から脱ぎとられたことにさえ気が
つかないほど、私はテレビの画面に視線を釘付けにされていた。


「女性は私の妻です…男性は、あなたがよくご存じの方ですね…」

どういうことなの…私はムラタさんの妻という言葉に驚きを隠せないまま、彼を振り返る。その
とき、ムラタさんの唇が、私の唇をゆるやかにとらえた。


画面の中の男は、私の夫だった…。



夜になって、突然、襲ってきた豪雨も、今は小降りになっている。
私のマンションから眺める街の灯りが、雨に溶けたように霞んでいた。バルコニーから曇った夜
空を眺め、窓を閉めようとしたときだった。ふと目をやった足元には、プランターに植えられた
いつもの花が、瑞々しい光を放ち、小風にかすかになびいていた。

夫がこの花を思いたったように植えたのは、確か一年ほど前だったような気がする。その理由を
私は聞いたことがなかった。


その花の名前は、クロッカスだった…。


私は、窓のカーテンを閉めると、夫が寝ているベッドに戻り、彼のからだに寄り添う。淡いスタ
ンドライトの光が、深い眠りにおちている夫の横顔を照らし出していた。


私は三十歳のときに、三歳年上の夫と結婚した。あれから十二年…夫と出会った頃、積極的だっ
たのは、むしろ私の方だった。

でも、私は、いったいどんな夫を自分の中に描いていたのだろう…そんな遠い追憶の淵をなぞる
ように、私は、剥き出しになった夫の角張った肩を静かに指でなぞる。

セックスレス…いや、私たちはただ求めることをしなくなっただけなのだ。いつ頃からか、それ
があまりにあたりまえのようになっていることに、私はため息さえつくことがなくなっていた。




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