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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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序編-8

「戸田係長は、以前、同じ係の先輩でしたから」

 5年前まで、戸田は強行犯係の班長だった。彼が異動して島崎が後を引き継いだ。だから、戸田の性格も出方も大方は把握していた。

「だったら、島崎さんが直接やった方が上手くいくんじゃないか?」

 困難を避けようとする魂胆がみえみえだ。こういう場合、立場を解らせる必要がある。

「係長。仮に私が交渉に出たら、戸田係長は怒りに任せて怒鳴り込んで来ますよ」

 島崎の口から出た厳しい言葉。

「相手が係長なら、こちらも同等の人間を立てないと礼を欠きます。私は同行というカタチで、あくまで係長が窓口となって下さい」
「そ、そうだな。ああ、解った」

 翌日。加藤の下で高橋と戸田へ命令が下された。
 組織犯罪対策係から、応援4名を強行犯係付きとし、事件の専従捜査官として従事させること──島崎の思惑通りとなった。

 すぐに、佐野真二を班長とする4名が強行犯係に送り込まれて来た。これを見た島崎は、どうにも納得がいかない。
 組織犯罪対策係は、5人の班長から編成される。その中で最も優れているのは、田中重人が率いる班だと聞いていた。

(戸田さんは、協力する気はさらさらないな)

 島崎は自分の浅はかさを悔いた。
 以前は仲間だった戸田は、自分の班が捜査に当たっていることを知っている。
 だから、今回の協力に、最高の班を出してくれると思っていた。が、そうではなかった。

(だが、俺達だけよりマシだな)

 島崎は、すぐに気持ちを切り替えた。

(こんなところで立ち止まってる場合じゃない。とにかく、しばらくは、これに賭けるしか手立てはない。
 だがもし、これで成果が出ない場合は、もうひとつの手を打つ必要があるのかも知れんな……)

 新たな体制を迎え、皆の志気が高まる中、島崎だけは1人、別のことを考えていた。



 「ふたつの祖国」序編完


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