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Enfant Terrible―或る女の独白―
【ロリ 官能小説】

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火葬終了を知らせる放送が待合室に流れると、父と娘は立ち上がり、無言で遺骨の待つ部屋に向かった。
他に参列する者のいない閑散とした斎場でさやかは黒のワンピースを着てぼうっと立ち尽くしていた。痩せぎすで背ばかり高い猫背の父親は彼女を見ることすらせず、憮然としている。
二人の一種異様なムードにセレモニーホールの担当者は戸惑いながらも、骨の一つ一つの部位を事務的に説明しながら骨壷に納めていく。
『…それではお二人でゆきえさんのお骨をお納めください』と従業員は最後の骨と箸を指し示した。
今まで目も合わせなかった二人は一瞬顔を合わせるとすぐに目を逸らし、慣れない手つきで骨を持ち上げ、そろそろと壺に入れた。
『じゃあな、さやか。さっき渡した住所がこれからのお前の家だ。そのメモの男に電話をして行き方を確認しなさい』
父親は、自分の妻の葬儀を終えたばかりとは思えぬ淡々とした表情でさやかに冷たく言った。
『…はい』さやかはうつむいたまま答えた。
そして父親はそのまま黒塗りのタクシーにさっさと一人で乗り込むと9つのさやかを残して去っていった。

さやかはカートを引きずり、駅に向かう。
雑踏はテレビ画面を観るようだ。構内のさんざめきも厚い真綿に隔たれたように遠く薄ぼんやりとしか聞こえない。
駅の案内板を凝視し、チケットを買うと上りの新幹線に乗った。
品川駅に着くと、電話で“メモの男”に言われた通り、そのままタクシー乗り場向かった。
彼の指示に従い、そこで迎車と表示してある黒いベンツを探して乗り込んだ。
『料金は支払わなくていい』さやかはそう言われていた。確かにメーターは下ろされない。

住所を告げて30分、着いた家は古い佇まいの大きな平屋だ。ひのきを黒く焼きしめた表札には『才賀』と太く彫られてある。
チャイムを鳴らすとしばらくして頭上のインターフォンから『ドアは開いてるからそのまま入っておいで。廊下を左に曲がってすぐの居間にいるから』と声がして、黒い門が重たげに開いた。
さやかが一歩足を踏み入れた途端、門扉の脇からバウっと野太い声がした。ぎくりとして声のする方を恐る恐る見ると、そこにさやかの身長をはるかに超える銀の巨大ケージがあり、中からさやかの背ほどの大きな犬がこちらを向いて尻尾を振っている。びくびくしながらそこを遠巻きにしてそろそろ歩くと、足元に敷きつめられたさざれ石が小川のように湾曲して玄関まで続いている。
ひんやりした広い三和土で靴を脱いで揃え、そこにカートを置いて指示された通り居間に向かう。襖の開いている部屋を覗くと、床の間を背にして胡座をかいて彼は待っていた。さやかが電話の声から想像していた印象より若かった。
『さやか、犬に驚いたか?あいつはグレイハウンドで名前はダルシムだ。おとなしくて頭がいい。怖がることはないからな。…で、俺がお前のおじさんだ』
『おじさん…』
『…お前の母親の弟だ。溝口さんからは何も聞いてなかったのか?…まぁ無理も無いだろうがな…。ゆきえのしでかしたことは溝口さんにとって完全なる詐欺・裏切り行為だ。…で、お前には何の罪も無い。溝口さんのことはもう忘れろ』
彼は鉈で断ち割るようにばっさり言い放った。さやかは父親に愛された記憶がない。それは浅からぬ傷と理由のない自責の思いを日々さやかに与えていたが、目の前の男はこともなげにその父親を忘れてしまえと言う。そんなものなのか―?そして父の冷たい態度の原因は母にあるという。さやかは呆然とした。
『…お前の荷物はもう届いてる。後で整理しなさい。収納が足りないなら近いうちに家具を見繕いに行くから』
『はい…』
『今から家の中を案内しよう。この家は無駄に入り組んでるんだ。下手すると迷う。お前の母親は小さい頃、トイレから自分の部屋に戻れずに泣いたこともある』立ち上がりながらさやかを横目で見て口の端を少し上げ、そう言った。
『ママが…?』不思議そうな顔でさやかが前を歩く大柄の彼を見上げた。すっと伸びた背筋、厚い胸板、広い肩幅。少しクセのある黒い短髪、形の良い頭、高く通った鼻梁に切れ長の奥二重。整った厚めの唇。見るものを惹きつけずにおかない容姿だ。
『ここをお前の部屋にしようと思うが、どうだ?』襖を開けると彼は梁に肘をもたせかけて、さやかを見下ろした。
その部屋の隅にはさやかの持ち物の入った大小の段ボール箱が積まれている。
彼が最初に案内したその部屋は10畳はあろうかと言う和室で南向きの角部屋だ。漆喰の壁の二面に大きな窓があって濃淡の緑が覗く。さやかが昨日まで住んでいた田舎のマンションとは比べ物にならないほど明るく広い。
『はい。有難うございます』さやかはぺこりと小さな頭を下げた。彼はしばらく部屋を見て、『日が入り過ぎるな…。カーテンは週末にでも選びに行こう。俺の部屋は斜向かいにある。トイレは出てすぐのところだ。これなら迷わないだろう』
そう言うと部屋を出て更に奥へ進んでいく。少し暗くなった廊下の先は板の間の台所だ。そこも以前住んでいたマンションのそれより格段に広い。
そこに一つある大きな窓に面して使い込まれた大小二つの流し台に広い調理台、古い五徳のガスコンロが4基並んでいる。コンロの下に設えられた金属製の特大オーブンと角に据えられた見上げるほどの高さの冷蔵庫は純和風な台所には不釣り合いなほど洋風だ。そしてその奥に広い和室が続いている。畳の上に時代がかった重厚なテーブルと六脚の椅子が置かれている。磨きこまれたテーブルと椅子の脚に施された凝ったレリーフが艶やかに光っている。
『ここが食卓だ。…お前の背丈だとこの椅子じゃ首しか出ないな。後で座面に補助台をつけてやる』


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