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刻を越えて
【SF その他小説】

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刻を越えて-8

川上 衛偏(2)

 奴は来るだろうか。前世の確かな記憶を持たない奴は、殺し合いをしに来るだろうか。
約束の場で、彼を待つ間、そう考えた。辺りはひっそりと静まり返っている。
物音一つしない。当然だ、そういう場所を選んだのだから。
人ひとり通らない、さびれた公園。緑の多さと周りの静けさは、あの時と似ている。
私が死んだあの時と。私の決断は正しかったのであろうか。
私は真っ先に私を「父さん」と呼んだ彼女を探すべきだったのではないか?
私の悪夢を、彼女なら癒せたのではないか。
「ふん、いつに無く弱気になっているな。」
あえて口に出した。それは真実だ。
死ぬことが恐いわけじゃない、同じ相手に二度負ける事が恐い。
けれど憎悪が恐怖を塗りつぶす。あいつを許せない。
竹丸を殺してから、彼女に会いに行こう。
そうしなければ前世を引きずって生きていかなければならなくなるから。
そしてなにより、竹丸を殺さなければ彼女に見せる顔が無いと思うから。

 ふと近くの時計に目を移すと、その針は約束の五分前を指していた。
その、何年前から在るか分からない時計が正しい時間を告げているかどうかは定かではないが。目の前の暗闇に、奴がいる。その気配は気付いていた。
「待たせたな、・・・・佐之介。」
奴は穏やかな表情でそう言った。来ないわけが無い。お前は誰よりも戦を好む男だ。
売られた戦を買わないはずがない、戦に理由なんて無いのだから。
変わってはいない、あの頃と、何も。
「待ったよ、何百年も。」
「それは悪い事をした。今度は成仏させてやろう。」
「そんな木の棒では無理だ。」
言って私は用意しておいた刀を投げた。それを受け取った竹丸は言う。
「まるで殺してくれと言っているようなものだな。」
過去のしがらみを断つためだ。
竹丸は鞘から刀を抜き、抑え切れずに
「始めよう。喉が熱いんだ。」
と言った。
「すまんな、終われば、痛みは感じなくなるさ。」

三度目にして最後の対峙

「うおおおっ」
竹丸が二人の距離を無にする。それはどこか懐かしさを帯びていた。
低い姿勢からくりだされる竹丸の一刀を刀で受ける。
キイインッ
鉄がぶつかる音が響き渡る。
今の時代には似つかわしくない音、しかし今の二人にはこれ以上ないほど相応しい音色。
キンッ!
ヒュン!
ザシュッ!
弾ける火花を視界の隅に捉え、次第に赤く染まっていきながら、二人は笑っている。
悠一は久しく味わえなかった紙一重の殺し合いを快感に変えることで、
衛は求め続けた復讐を実行に移していることで、
互いに 憎みあいながら 殺し合いながら 笑っている

剣技、俊敏さでは竹丸が上。
それも当然、彼は剣道日本一。
かたやろくに剣の練習さえしていない佐之介は、押しの一手に優れる。
攻撃は最大の防御とは、戦の正しい捕らえ方。
憎悪の剣を、技でかわす。
瞬き一つで死が訪れる、そんな緊張感。
これが悠一が望んだもの。
これが衛が仕掛けたもの。
なかなか決定打の出ない戦いもついに終焉を迎える。
一瞬、何かに気を取られた竹丸。
それを見逃すはずもなく。
ザクッ
佐之介の刀が竹丸の肩にくいこんだ。
「ぐおお」
痛みが体中を駆け巡る。
避けられる一刀だった。
視界に入ってしまったものが、判断を鈍らせた。
両膝を地につきながら、持っていた刀を落としながら、竹丸は、いや、悠一はこう自問した。
どうして、どうして、佐之介の・・後ろの木の影に
圭子がいるんだ                       

川上衛偏(2)了


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