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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-3

第一話 《変後暦四二三年十月十四日》


 村外れの簡易基地。
クリスとエリックは、責任者と交渉して借りた(接収した)部屋で、休んでいた。
簡素な造りで、小さな部屋にはテーブルと椅子、そして三段ベッドが置いてある。
「…………はぁ…」
 いかにも憂鬱な感じで、テーブルに突っ伏したクリスがため息をついた。
もしかすると、軍に寄った事で決心が鈍ったのかもしれない。
「……やっぱり、このまま軍に残るか?」
 そんなクリスの様子を見て、さすがに放って置けないエリックが声をかける。
「ん……そうゆうんじゃないの。ただ疲れただけ…」
 顔を上げて、クリスが答えた。思えば昨日から歩き通しだったのだ。
「ああ、そうか…そういえば、俺も少し疲れたな……」
 そこでやっと、エリックも自分の疲労を認識した。一度自覚してしまうと、耐え難い。
先程の言葉はエリックを安心させる為なのだろうが、疲労しているのは確かだ。
「…ここで一日休んでから出発しましょ……それとも、長距離バスに乗ってから休む?」
 どことなく前者を期待しているような目で、クリスが問いかける。
やはり本当は少し名残惜しいのかもしれない。
疲労の状態とクリスの気持ちを考えれば、エリックに否やは無かった。
「そうだな……ここで休んで行こう。正直かなり眠いからな……」
「うん……それじゃ、さっさと寝ちゃおっか。おやすみ〜」
 言ってクリスは、三段ベッドの一番上に潜り込んでしまった。
その直後に、安らかな寝息が聞こえてくる、
「………やっぱ、単に疲れてただけか…?」
 クリスの行動を見て、エリックはそう呟かざるをえなかった。
しかし眠いのも事実。彼もベッドの一段目に潜り込むと、直ぐに寝息を立てたのだった。

 その夜。
「ぅ……」
 エリックは理由も無く、ふと目を覚ました。
目だけを開けて、周囲を見てみる。
直ぐに、窓際に立って外を眺めているクリスが視界に入った。
(クリス……?何を……)
 何をする訳でもなく、ただクリスは窓を開いて外を眺めていた。
丁度エリックに背を向ける形になっているので、表情は判らない。
ただその背中は儚げで、月明かりの影になって輪郭だけが妙にはっきりしている。
浮世離れした、夢のように静かな光景だった。新しいクリスを発見した気がした。
声をかける事が出来ない。自分が動いたり声をかけたりしたら、そのまま消えてしまいそうな気がした。そしてそれにもまして、エリックは単純に、そんなクリスに見とれてしまっていたのだ。ずっと観ていたいと思った。
だが世の中はそううまくいかない、
「……くしゅっ!」
 開いた窓から吹き込む冷気にやられたか、エリックは思わずくしゃみをしてしまった。
しまったと思った瞬間、弾かれたようにクリスが振り向いていた。
さすがに消えてしまったりはしなかったが、もう先程までの空気は無かった。
「エリック………」
 少し驚いたような顔で、クリスは呟く。
「どうしたんだ…?」
 少しばつの悪い思いをしながらも、エリックはベッドから出て訊ねる。
「ちょっと…昔の事思い出してただけ……」
 苦笑気味に答えるクリス。恐らく彼女も少し気恥ずかしいのだろう。
「まぁ、判る。俺も色々思い出すしな…………クリスの昔は……どんなだったんだ?」
 何となく興味がわいて、クリスの傍まで歩み寄ったエリックは聞いてみる。
クリスは幼少時代でも、多才ぶりを発揮していたのだろうか。
少し考え込むような仕草をしてから、クリスは口を開いた。


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