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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜』
【SF その他小説】

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『兵士の記録〜エリック・マーディアス〜第三部』-2

プロローグ
 《変後暦四二三年十月十四日》


 「あの村がそうか?」
 クリスと連れ立って歩く事数時間。前方に見えてきた村。
エリックはクリスに、長距離バスに乗る村はあれで良いのか訊ねる。
「ん?その筈よ。方向とかは間違ってない筈だから。…でも……」
 クリスは答えて、村の方に目をやる。最前線の村だけあって警備が厳しそうだ。
村のあちこちには警備兵が巡回し、村はずれには簡易基地も設置されている。
「…無理じゃないか?俺たちが村に入ったら一発だぞ?」
 なにしろ二人はジュマリアのパイロットスーツを着ているのだ。
そんななりで村に入れば、即座に捕まるだろう。
仮に逃れられたとしても、そこから長距離バスに乗るなど到底無理な話だ。
「はぁ……気は進まないけど、やるしかないわね……」
 クリスはしかたないとばかりに溜息をつくと、村の方へと歩き出す。
「……は!?何やってんだ!?」
 エリックの言葉に構わずに、ずんずん進んで行くクリス。
しかたなく、エリックも後を追う。
そして二人が村の入り口にさしかかった時。
「おい、待て!」
 予想通り、一人の兵士に呼び止められる。
そしてこれまた予想通り、あっという間に取り囲まれた。
クリスはといえば……あっさりと手を上げている。
「お、おいク」
「動くな!とりあえず基地まで来て貰おうか。」
 思わず呼びかけたエリックを、取り囲んだ兵士が制する。
「ちょっと待って。」
そのままクリスのホルスターから銃を抜いた兵士に、クリスが一言声をかける。
「あたしを知らないなんて…まぁいいわ。胸ポケットからIDカードを取ってくれない?」
「な、何故俺がそんな事を……」
「いいから!」
 口答えする兵士を一喝し、クリスは兵士に自分の胸ポケットからIDカードを取らせる。
兵士も、クリスの迫力には勝てなかったようだ。
「全く…………ん…?…こ……これは………」
 IDカードを見るなり、兵士の顔色が見る見る変わっていく。そして。
「しっ!失礼致しましたっ!かの高名な『風神』クリス=アンファング中佐とはいざ知らず、とんだ御無礼をっ!」
「判ればいいのよ。」
 恐縮したように最敬礼する兵士。憮然としながら、クリスは銃とIDカードを受け取る。
周りの兵士達も、呆気に取られた後、一斉に最敬礼した。
「中佐、ここへはどのような用件で?」
 恐縮しながら、兵士が問う。
「任務でこの先の簡易基地に潜伏していたんだけど、撤退して来たのよ。彼はエリック、あたしの部下。それじゃ、基地に行かせてもらうわね。」
 言ってクリスはそのままさっさと歩き出し、エリックも慌ててそれを追う。
「…お前、そんなに偉かったんだな…」
 周りの兵士に聞こえないよう、エリックはクリスに耳打ちした。
クリスがある程度の権限を持っている事は知っていたが、まさかこれほどとは思っていなかった。……まあ、クリスの能力を考えれば、もっと上で良い気もするが。
「……別に…威張れる事でもないわ。」
 足を止めることも無く、クリスは妙に冷めた口調で言ったのだった。


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