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スプーン・ポジション
【女性向け 官能小説】

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昔のオトコ-6



プログラムの不具合はすぐに確認出来たが、修復作業はかなりの時間を要した。

確かにこのレベルのトラブルでは、経験の浅い永沢まりかには全く歯がたたなかっただろうと思う。


面倒な作業ではあったが、久しぶりに愛着あるTシステムを動かした充実感で、さほど疲労は感じていなかった。


トラブル処理の報告書を提出してオフィスに戻ると、後輩社員たちはみんな退社したあとだった。


まりかも既に帰ってしまったらしく、デスクの上は綺麗に片付けられている。


本来自分がやるべき仕事を先輩に始末してもらったわけだから、形だけでも一言ぐらいお礼なり挨拶なりがあってもいいと思うのたが……。


「……若いコはドライだなぁ……」


こんなふうに思ってしまう自分は、既に口うるさいお局様だと思われてもしかたがないのだろうか。


ジェネレーションギャップを感じながら自分のデスクに戻り、パソコンを開く。


結局、本来今日自分がするはずだった仕事がまるまる残ってしまっている。


すでに時計は7時を回っていたが、半分だけでも終わらせておかなければ、明日の業務に支障がでそうだ。


「―――あとひとふんばり、やりますか」


自分を励ますように呟いて、大量にたまっているデータの処理に取りかかった。





――――――――――――――



はじめに気づいたのは微かな「匂い」だった。


熟れすぎた甘い果実。
まるで男性のフェロモンそのもののような――――私の記憶の一番薄暗い部分を刺激する、甘く官能的な芳香。


この香りは――――。


ハッとして振り返ると、すぐ後ろで一輝が私のパソコンを覗きこんでいた。


「びっ……びっくりしたっ……い……いつからいらしたんですか?」


気づけば既にメインライトは消えて、オフィスの中はかなり薄暗くなっている。


パソコンのライトに照らされた一輝の顔は、一日の激務を終えてさすがに少し疲れているように見えた。


「いや―――たった今会議から戻ってきたとこ……それ、今日のぶんのデータか?」


背中に覆い被さるように身体をかがめてくる一輝。


吐息が耳にかかるくらい唇が近くて、麻酔がかかったように身体の芯が痺れる。


「俺のせいだな――――手伝うよ」


「い……いいえ。もうほとんど済んでますし……残りは明日にまわせそうなんで、もう……あ、あがります」


本当は全部やってしまおうと思っていたところだったのだが、こんな時間に一輝と二人きりでいるところを誰かに見られたらますます厄介なことになる。


「……ふーん」


残りのデータの束を見ながら、一輝がゆっくりと私の肩に手を置いてきた。


「もしかして……俺から逃げるの?」


ドキッとするほど熱を帯びた声。


「そ……そういうわけじゃ……ないけど……」


動揺して敬語を使うことも忘れてしまった。


肩に乗せられた手が、私の手触りを確かめるようにゆっくりと背中を撫でおろす。


「……俺といるのが……怖い?」


――――ダメだ……このままじゃ……。


耳に一輝の唇が触れそうになり、私は慌てて立ち上がった。


「か……帰ります……」


「――――待てよ」





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