昔のオトコ-7
逃げ道を塞がれ、正面から見つめられる。
「そんなに避けられたら、なんにも出来ないだろ――――」
「な、なんにもって……何を……」
後退りしようとしたが、まるで金縛りにあったように身体が動かない。
「例えば……今……天野が想像してるようなこと」
一輝の視線は私の唇をとらえている。
心臓がバクバクと高鳴って、顔が真っ赤になっているのが自分でもわかった。
「……震えてる?」
一輝がゆっくりと私の髪をなでる。
「……あっ……あの」
落ち着こうと深く息を吸い込んだが逆効果で、デザイアーの香りが体の奥深くまで入り込んで内側から私の本能を激しく揺さぶってきた。
ゆっくりと顔が近づき、鼻と鼻が軽く触れあう。
……ダメ……ダメだって。
込み上げてくるはしたない思いを断ち切ろうと、うつむいて視線をそらした。
逃げ惑う私の唇を追いかけるように、一輝も顔の角度を変える。
やめて……ダメ……あと3センチ……。
その距離で一輝の動きが止まった。
「……今……付き合ってるやつ……いるの?」
「……は……?」
予想もしていなかった言葉に戸惑い、私は思わず顔をあげた。
私の彼氏がどうこうという問題ではなくて、妻子もちなのは一輝のほうなのに。
もう一度恋愛しようと誘われているのだろうか?
だけどもし付き合ったとして……その恋の終着点には一体何があるというのだろう?
「い……いるわ……だから困るの……」
実際彼氏などいないけれど、この場を逃れたい一心で口から出任せを言った。
一瞬、深く考えるような沈黙―――。
一輝の心が全く読めなくて怖い。
「……じゃあ……そいつが天野をこんなにイイ女にしたんだ?」
「……え……?」
「……7年前より、うんと色っぽくなった……」
喋るたびに一輝の生暖かい吐息が唇に直接かかって、身体の奥がジンジンと熱い。
どうにかなってしまいそうなくらい、一輝のキスが欲しくてたまらなかった。
「嘘よ……い、色っぽいだなんて……」
「――――妬ける」
絞り出すような切ない声で言われた一言に、ドクリ……と心臓が大きな音を立てて跳ねる。
その時、唇と唇がほんの一瞬―――掠める程度に触れあった。
「……ん……っ」
触れた部分から、痺れるような快感が身体中にビリビリと広がる。
「……祐希……」
こんな時だけ名前で呼ぶなんてズルい―――。
心の中でそう呟きながら、私は自分から貪るように一輝に唇を重ねていた。