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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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部活と冷静男と逃亡男-1

 壱/授業と予定と泣き落とし

 ……空が青い。
 ふと見上げた晴天、その後に視線を戻した教室の中は、少ないやる気をさらに減らすのに十分な光景が広がっていた。
 今は本日最後の授業である数学の真っ最中で、前に立っている初老の教師が機械的に教科書を読んでいる。
 勘違いしてはいけないのは、その教師は教えているのではなく、ただ教科書を音読しているだけなのだ。
 そこには教育にかける情熱などは一切感じられず、どちらかと言えば、給料を貰っているから仕方なく、と言ったリーマン的な感じだ。
 もちろん、そんな無駄なことに付き合う生徒はなく、自分で問題集を解くか寝たりする生徒がほとんどだし、教師もそれを注意したりしない。
 どうやら、生徒にまったく興味がないか、自分の授業より問題集の方が生徒の為になる事を理解しているらしい。
 給料泥棒って呼んでいいですか。
 とにかく、いつもならそんなつまらない授業など始まると同時に終了まで寝ていたのだが、今日は違った。
 はっきり言って、眠くない。どうしようもないぐらい完全無欠に眠くないのだ。いつもなら僕の精神を眠りへと誘う悪魔の甘言である退屈な数学の授業ですら、今日は右耳から左耳へと抜けていくだけ。
 よって、することが無い。
 授業中なのだから勉強をしろと言う人もいるかもしれないが、それは無理だと思う。
 入学して一ヵ月程が経過した今、もはや数学はまったく分からない。教科書に並ぶ意味不明な記号の羅列から特定の答えを導きだすなど、長谷部の奇行を事前に予測すること並に不可能だ。
 つまり、寝れない、勉強もしたくない僕にとって、この授業は退屈この上ない。
 しかし、そんなバカみたいな時間の無駄遣いも残り五分。それだけ我慢すれば授業は終了、放課後だ。
 つばさに声を掛けてさっさと帰ろう。帰りは下り坂ばっかりだから、ブレーキを一杯に握り締めて。
 ああ、顔が熱い。何考えてんだよ、僕。
 それに、一人で赤面して、傍から見たら相当バカみたいなんだろうな。
 と、取り留めもない事を考えていたら、五分などあっという間だった。
 授業終了を告げるチャイムが響くと同時に教師が出ていく。
 これがあの教師の数少ない長所だ。終わる時間には正確なため、授業態度を注意しないのもあって不真面目な生徒達には歓迎されているらしい。
 かく言う僕もその内の一人だったりするのだけど。
 分かりやすく教えるか、楽な授業にする。どちらかを実践している教師は、おおむね生徒に人気があるような気がする。
 もっとも、どんなに優秀な教師がいても、こちらに選ぶ権利は無い。だからそんな無意味なことを考えるのもそこそこに、カバンを掴むとさっさと教室を後にする。
 どうせ、僕がいなくて困るやつなんていないし。
「あ、いっちー!」
 ちょうどその時、後ろで僕を呼ぶ声が。金曜と同じように。
 既視感を感じながら振り返ると、思った通りにつばさが小走りで駆け寄ってきた。そして隣に並び、
「いっちー、教室出るの早いね。話す友達いないから?」
 笑顔を浮かべながらさらりと刺のある言葉を吐く。
 実際にその通りなので反論なんてできないのだが、そんなつばさの行動に少しだけ眉を寄せて言う。
「とりあえず後半無視してやるけど。……なあ、人がいるところで大声で呼ぶのやめてくれないか」
「え? なんでー、いいじゃん」
「お前はよくても僕が恥ずかしいんだ」
「何それー。私に呼ばれるの、そんなに恥ずかしい?」
 僅かに首を傾げ、その大きな瞳で真っすぐに僕を見据えながらながら問う。
 世の中、どんな表情でも画になる人間っているんだなー、と思ったり。そうとうバイアスの掛かってる見方かもしれないが。
「……大声で呼ばれるのが、だ」
 僕はそんなつばさの顔を直視できず、視線を明後日の方向に向けながら答えた。だが、つばさは僕が視線を逸らすことは慣れているのか、特に気にした風もなく返事をする。
「うー、じゃあ小声で呼ぼうか? ……。これぐらいでどう?」
 この距離でも聞こえないのだが、まさか本気でやってるのだろうか。表情は割とマジに見えるが。
「……つばさ。お前、かなりバカだろ」
「むっ! そんなこと言って、昔からの伝統でバカって言う方がバカなんだよ」
 また表情が変わり、今度は少し怒ったような顔をする。次々と表情を変えるその様は、僕には到底真似できそうにない。
 その事に多少尊敬の念を抱いたが、何となく敗けた気がするので口には出さないで話を続ける。


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