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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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部活と冷静男と逃亡男-2

「……それは伝統とは言わないだろ」
「いいの! 要は人のことをバカバカ言ういっちーの方がバカだってことなんだから。分かった? バカいっちーでも、これぐらいなら分かるよね」
「……おい、お前がさっき言ったこと、もう一度言ってみろよ」
「分かったら人のこと簡単にバカって言っちゃいけないよ?」
 幼い子供を諭すようなその物言いに、バカにするニュアンスが大量に含まれている気がするのは僕の被害妄想ではないはずだ。
「じゃあ、もしも。もしもだぞ? 僕がバカだとして……」
「うーん……。いっちーの場合『もしも』じゃないと思うなぁ」
 再び何気ない風にさらりと毒を吐く。
「黙れ。とにかく、僕がバカだとしたらお前はそのっ――」
 そこで自分の言おうとしていたことに気付き慌てて口をつぐむ。だが、やはり不自然な印象を与えてしまったらしい。
「……その、何?」
「…………」
「お前はその?」
 勢いで言ってしまったが、続きは言える訳が無い。
「……あー、さっさと帰るか。今日は夕食の当番だった」
「あっ、ムリヤリ話逸らした! なんか顔赤いし、何て言おうとしたの?」
「……気にするな」
「えーっ! ケチー、教えてよー!」
「だ・ま・れ。急がないとなんだよ」
「いいじゃん、いっちーなら一時間もあればできるでしょ? 七時に食べるとしても、後二時間以上あるよ」
「……驚いた。お前、こんなときだけはマジメに理に適ったこと考えられるんだな」
「こんなときだけは、って、私はいっつもマジメだよ?」
「……」
「マジメだよ?」
「はいはい……」
「あーっ! その態度は絶対に信じてないでしょ!?」
 以外と鋭い。僕が大根役者なだけかもしれないけど。
 正直に話すと色々と面倒なので、とりあえずしらばっくれておいた。
「気のせいだろ」
「嘘だっ。いっちーは私がいっつも不真面目だって思ってるんだ。しくしくっ」
「……」
 口でわざとらしく涙の擬音を表現するつばさ。呆れている僕の視線に気付いていないのか、さらに続ける。
「それで、いっつも不真面目だけど、実はマジメで優しいって思ってるんだ!」
「自分で言うな」
「……あれ? 否定しないんだね。ってコトは――」
「な、なあ! 今日の晩飯の献立はロールキャベツにしようと思うんだが」
「あ、私もいっちーのロールキャベツ食べたいなあ」
「じ、じゃあ余分に作って持ってくな」
「やった! じゃあ期待して待ってるね」
 単純で助かった。これで自然な流れで帰りを催促できる。
「ああ。だから、早く帰ら……」
「ダメ。部活ちゃんと出なくちゃ」
「……」
 ダメだった。
「それに、長谷部先輩とかも、いっちーがいないと寂しがるよ」
「別にあいつらが寂しがっても関係ない」
「うわー、冷血、人でなし、女男ー!」
「……っておい、最後のは何だよ」
「知らないの? この学年に、男装の麗人みたいなカッコいい男子がいるって」
「それで?」
「鈍いなぁ。多分いっちーのことだよ?」
「…………は?」
 一瞬自分の耳を疑った。
「本当だよ。だってうちのクラスの子が、隣のクラスにいるって言ってたから」
「男装……」
 って言うか、つまり僕は女っぽいってコトですか? それは男として完全に否定したいのだが。
「きっとワイシャツの前を少しはだけて、うなじとかチラッと見せたら、ほとんどの男子はいっちーの魅力でイチコロだねっ」
 なぜか非常に楽しそうなつばさ。
「……イチコロでどうすんだよ……。そっちの趣味は無いっ」
「やだなぁ、そんなこと知ってるよー。冗談だってば」
「本当かよ……」
「だって、いっちーはスケベで女好きなんでしょ?」
「…………、少しも分かってない気がするのは僕の勘違いか?」
「じゃあ、スケベで男好きな人?」
 変にいい笑顔だ。つばさがこんな風に笑いながら話すときは、
「…………。からかってるのか?」
「あっ、気付いちゃった?」
「……」
 やっぱり……。
「さすがスケベだね。お見事お見事」
「……スケベは関係無いだろ」
「あはは、ホントだ。無いね」
「……」
 僕としては、何が楽しくてそんなに笑顔なんだとお前に問いたい脳天気女。
 まあ、つばさが楽しいのならそれはそれで悪くはない。
 そんなことを考えながら歩いていたら、急に引っ張られた…………髪を。


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