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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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寝起きと冷静男と登校風景-3

「ほら頑張れ〜! 遅刻しちゃうぞ〜!」
「……くっ!」
 後ろでつばさが好き勝手言っている。
 あの後、朝食を食べて遅刻覚悟で学校に行こうとしたら、つばさは玄関を出るなり僕の自転車の荷台に座り、徒歩と比べて自転車がいかに速いかについて語り始めた。
 その説明はやたらに長くて、意味不明な単語も頻出したが、要約すると、二人が乗れる上に徒歩よりも楽とのこと。
 二人乗りなど恥ずかしいのでなんとか説得を続けたが、つばさの期待に満ちた眼差しを裏切るわけにも行かずに、結局こうして自転車を漕いでいる。
 そして思ったのは、確かにつばさは乗っているだけだから楽かもしれないが、走らせるこっちは大変だということ。
 学校までの直線距離は大したことないが、高台にあるために上り坂がやたらと多く、さらには慣れない二人乗り。運動は苦手じゃないが、これはさすがにしんどい。
「またスピード落ちてきてるよ」
 そんな僕の苦労を知ってか知らずか、お気楽そうな声。
「っ、うるせ、お前、がっ……重い、んだよ……っ!」
「な!? そ、そんなことないよ!」
「……昔、より、重いぞっ」
「いつの話!? 最近いっちーと自転車乗ってないよ」
「……小、学四、か、五年……とき」
「そんなときと比べたら重いに決まってるじゃん!」
「……」
「いっちー、ちゃんと聞いてる?」
「……」
 正味な話、そろそろ死ぬかなと思っていたら、ようやく坂を登りきった。家から上の道まで一気に来たから、後は割と平坦な道だけだ。
 さらに目の前でタイミング良く信号が赤になったので、この機に荒れた息を整える。酸素万歳!
「運転手さん、大丈夫ですかー?」
「ん、まあ、ギリギリだけど」
「後ちょっとだよ、頑張ってね」
「言われなくても頑張ってるさ」
「だよね。こんな可愛い娘乗せてたら頑張っちゃうよねー」
「自分で言うな」
「学校に着いたら褒めてあげるよ」
「どーも」
 信号は、まだ変わらない。
「そう言えば、今日はいつもより早く目が覚めたんだ」
「あ、同じく」
「いっちーも?」
「何でだろうな」
 一瞬の沈黙。
「いっちー」
「今度は何だよ?」
「私、今すっごく幸せだよ」
「……」
 信号が変わった。
 無言で踏み込むペダルは、向かい風なのにさっきよりもずっと軽い。
 なぜか、追い風よりもいいなと思った。
 たぶん、つばさも、きっと。

 幸せ。
 その一言は言えなかったけど、願わくば、この時間が少しでも長く続くようにと、祈りながら、ペダルを踏んだ。
 ゆっくり、ゆっくりと。
 今日も、いい日になりそうだ。


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