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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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寝起きと冷静男と登校風景-2

「入るよー。着替えの最中に入っちゃってドキッ、なんて展開になっちゃっても知らないよー?」
 意味分からん。
 止める間もあらばこそ、すでに戸は開いている。
「おはよう……って、あー、まだ寝てる! ホントに遅刻しちゃうよ。起きろー!」
 入ってくるなりのハイテンションに、のろのろと上半身を起こすと、小さく文句を言ってみた。
「……五月蝿い」
「あ、起きてた。おはよ、いっちー」
「……こんな時間にどうしたんだよ」
「朝の挨拶は、おはよう、だよ」
「は? それより何で朝っぱらから……」
「お・は・よ・う、だよっ」
 どうしても言わせたいらしい。話が進まなくては困るので、
「…………おはよ」
「うん、おはよういっちー」
 満面の笑みを見ていると、些細な疑問など吹き飛びそうだが、そうなっては困るので聞いてみた。
「で、こんな朝っぱらから何だ?」
「うーん、近所に男の子がいたら毎日起こしてあげて、フラグだっけ? それを立てさせたら男なんて落としたも同然なんだって。よく分かんないけど」
「……おい、どこでそんなの覚えたんだ? …………いや、待て。文学部、か?」
「うん。先輩、長谷部先輩が萌えの初級はこれだ、って言って教えてくれたよ」
「……」
 いままでも何度かおかしいと思ったことはあったが、今回はランキング上位に食い込みそうな迷言だ。
 て言うか、いちいち実践すんな。
 これ以上つばさが文学部の毒に侵される前に、さっさと辞めさせるべきではと本気で思っていると、
「ホントは違うんだけどね」
「え……?」
「もう! 約束したのは昨日なのに忘れちゃったの?」
「……約束?」
 分からない。頭をフル稼働させて昨日の記憶を掘り出す。
 昨日、昨日……。日曜だった、昼まで寝てた、つばさが家に遊びにきた、けど特にすることもなく適当に話してた、夕飯が不味かった……。
「あっ……」
「思い出した?」
「うん、まあ、一応。朝、学校に一緒に行きたい、だったか?」
「……うん。七時五十分に待ち合わせだったのに来ないから、まだ寝てるのかなって」
 で、今は八時ちょっと過ぎ。
「……まだ十分ぐらいしか経ってないぞ」
「でも思った通りに寝てたじゃん」
「……」
 どうやら、こちらの行動は読まれているらしい。
「とにかく、ほら、早く布団から出て着替えた着替えた!」
 歩み寄るなり、問答無用で布団の端を掴んで引き剥がそうとするつばさ。
「って、うわっ!? ちょっ、待てっ!」
 慌てた。とにかく慌てた。
 今まさに引き剥がされようとしている布団を、両手で必死に押さえ付ける。
「ほら、ワガママ言ってないでさっさと起きる!」
「起きる! 起きるからちょっと待て!」
 あからさまに不機嫌そうな半眼で見てくるつばさ。
「いっちー、何か変だよ。どうしたの?」
「……うるさい」
 答えにはなってないが、説明なんてできる訳がない。いや、だって朝だし、なぁ?
「とにかく、着替えるから出てってくれ」
「はぁーい」
 つばさが出ていったのを確認してから布団から出ると、制服に袖を通す。
 教科書は机の中に放置してあるから忘れ物の心配は無い。
 着替えが終わると、タバコと財布しか入ってない軽いカバンを掴んで廊下に出る。
 この間約一分。
「あ、そう言えば、お前はもう朝飯食ったのか?」
「うん。こっち来る前に食べてきた」
「……。なら先に出てろ。洗面所使ったらすぐ行くから」
「え? 朝ご飯食べないの?」
「時間がないだろ。それに、一食抜いたって死にはしない」
 まあ、起きるのが遅かった自分が悪いんだけど。
「ダメ」
「は……?」
「朝はちゃんと食べなきゃダメ」
「……」
「分かった?」
 分からないと言ったら、どうするつもりなのだろう。
 怒るのだろうか、泣くのだろうか。
 どちらにしろ、僕は抵抗などできない。
「……遅刻しても恨むなよ」
「一回ぐらいなら大丈夫だよ。何回もだとさすがに恨むけど」
「……」
 何だか、とても気が重かった。


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