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悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

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寝起きと冷静男と登校風景-1

 月曜。
 なぜだか早くに目が覚めた。
 枕元の目覚まし時計を見ると、驚いたことにまだ七時。セットした時間よりも一時間も早く目が覚めたことになる。
 生まれてこの方、目覚ましより早く起きたことなど皆無なため、『ああ、朝ちゃんと起きる夢かな』との思いが頭をよぎったが、昨夜カーテンを閉め忘れた窓から入る、リアルな朝日が目に痛い。
 我ながら微妙に信じられない状況だが、さらに驚くべきことに、二度寝の誘惑にも負けずにそのまま布団から出ることに成功。
 これが現実なら、遅刻しなくても済みそうなのはいいが、何となく気味が悪いのもまた事実。
 とりあえず落ち着いてベッドの上に座り、はっきりしない寝呆け頭で原因究明を急ぐことにした。
 考え付くのは、時計が狂っている、悪いものを食べた、眠れる才能が目を覚ました、未来の秘密道具、笑う販売人の商品の力、誰かの呪い、実は夢オチ、エトセトラ……。
 しかし、携帯と見比べる限りでは時計は正確だし、昨日食べた変なものなど母親の手料理ぐらい、それでも時間の感覚が狂うほど強烈な不味さではなかったはず。あの不味さは常識の範囲内だった。うむ。残すとキレるから嫌々ながらに全部食べたけど。新手の拷問を受けた気分。
 閑話休題、別に矢に貫かれて能力が目覚めた訳でもない。そんな奇妙な冒険あってたまるか。
 さらに、青い猫型ロボットも笑う販売人も家には来ていないし、呪いも、相手が早く目が覚めても意味がない気がするから却下。
 エトセトラ……、エトセトラって何だろうか? などなど? 自分でもよく分からないからこれも却下。
 と、なると、
「……やっぱり夢オチか?」
 一番現実的でこの状況にピッタリでエキセントリックな案はこれぐらいだ。エキセントリックじゃねえ。
 とにかく、暴走気味な我が頼りない頭脳が出した答えは、『これは夢』。
 夢の中で考えた、夢な状況。そうして夢々しい結論が……。
 ――って、何だか別宇宙に飛び立つところだった。まさに危機一髪。
 しかし、他にも何かを忘れている気がしてならない。
 どうしたんだ?
 何だろうか?
 何だ……zZZ。

 ジリリリリリッ。
 目覚ましのベルが鳴っている。それと、誰かの怒鳴り声。
「おーい、幸一、さっさと起きろっ。いつまで寝てんだー。早く起きやがれー!」
 ドンドンドン、ガチャガチャガチャ。
 母親がドアを叩いてドアノブを上下させているのだろう、うっさい。
「起きろっ! 起きろつってんだ、ろ!」
 ドンドンドン、ドガンッ!
 最後のはたぶんキレて蹴っ飛ばした音。目覚ましがうるさく、母親もうるさい。いつも通りの朝だ。
 枕元で鳴り続けている時計を引き寄せて見ると、すでに八時。やっぱり、さっきのは夢だったらしい。
 どうでもいいが、目覚ましの音は何でこんなにも耳障りなのだろうか。人を起こすためだからか。納得。
 納得したところでうるさい目覚ましを黙らせると、再び布団を頭から被る。
 また連打が始まると思うと少し精神にくるものがあるが、そこは我慢。
「このバカ息子っ、いい加減に――!」
「あ、おばさん、そのぐらいでいいですよ。後は私が起こしますから。おじさんと仲良く朝御飯でも食べててください」
「あ、そう? 何だか悪いわね、わざわざ朝っぱらから」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「ここだけの話、あいつ夜オバケが恐くて寝れないから次の日なかなか起きれないのよ。偉ぶってても、まだまだガキよねー」
「うわぁ、それ本当ですか?」
 声デカイから丸聞こえだ、そんな訳ないだろバカ。
 それより、うちのくそババァの声の他に、つばさの声も聞こえるような気がする。声が小さくてハッキリとは聞こえないが。いや、こんな時間につばさが僕の部屋の前まで来てるわけないか。
 ――うわ、ってことは幻聴か。ヤバいかなぁ。やっぱり一昨日のが原因かな。
 そんなことを考えている内に、じゃあ任せたよ、という母親の言葉と共に足音が一人分離れていった。
 コンコンコン。
 母親と比べ、かなりおとなしいノック。と言うか、母親のあれはノックじゃない、殴打だ。ドアを相手にした格闘。
 とにかく、離れたのは母親らしい。
「朝だよー? いい加減に起きないと遅刻しちゃうよー」
 ……嗚呼、何だろうか、この恥ずかしい予感がたっぷり含まれた声は。
 と言うか、この声は間違いなく、
「おーい、いっちー? 聞いてるー?」
 ……つばさだろ。
 いっちーなんて呼ぶのはあいつだけだし、さっきは声の小ささと寝呆けで気付けなかったけど、間違える訳がないぐらい聞き慣れた声。
 さっきのは幻聴ではなかったらしい。一安心した。


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