投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

悪魔とオタクと冷静男
【コメディ その他小説】

悪魔とオタクと冷静男の最初へ 悪魔とオタクと冷静男 33 悪魔とオタクと冷静男 35 悪魔とオタクと冷静男の最後へ

オタクと冷静男と思い出話-17

「はあ。前も言っただろ、騒がしいのも嫌いじゃないって。分かるか? 僕は別につばさが嫌いなわけじゃないんだよ」
 むしろ好きだ、と言うのは心の内に秘めておく。当然、恥ずかしいからだ。
「でも、好きでもないんでしょ?」
 クッションから僅かに顔を上げて言うつばさ。上目遣いの目は、泣いていたのか少し赤く、こう、グッとくるものが……。
 ってまたかよー! マジメにやれ、僕!
 とりあえず、つばさに返事をする。
「いや、それは、えっと……」
 つばさは、しどろもどろの僕を見て少し悲しそうに、
「ほら、やっぱりそんな焦ってる。……あーあ、私はこんなにいっちーのことを大好きなのにね?」
「…………………………………………………………え?」
 桜子の妄想癖が本格的に感染したのだろうか、自分の聴覚を今までに無いほど最高に全力で疑った。
「鈍感。やっぱり分かってなかった?」
 再びクッションに顔をうずめて言う。
「え、いや……」
「いっちーはそんな事に興味なさそうだし、あっても遠矢さんにだよね?」
 なんだか、話が唐突に、しかし、致命的なまでに勘違いな方向に流れているような気がする。
「ずーっと、好きだったんだよ? それに、何回もそれとなく伝えようとしたのに、いっちー鈍いし」
 少し早口で気持ちを吐露するつばさ。僕の頭はまったくついていけないで、オーバーヒート寸前だ。
 ただ一つだけ分かることは……。
「いきなりこんなこと言われても、迷惑だよね。でも、断られるとしても……」
「ちょっ、ちょっと待てよ。なんか勘違いてるって」
「だって、いっちーは遠矢さんが……」
 ようやく頭が追い付いた。つまり、つばさは大きな勘違いをしているようだ。中途半端な言い訳ではそれを正せないだろう。
 つまり、誤解を解くには、
「っ――!?」
 僕の思いの丈を伝えなくてはいけないと、そうゆう事か!?
 その考えに至り、四月の屋内だというのに汗が滝のように流れだした。
 ダラダラ。
 つばさは、今は黙ってクッションを抱いている。いや、つーか、だからさ、はあっ!?
 いや、落ち着け落ち着け落ち着け。
 恥ずかしいけど、でも……。
「いっちー、気を遣わなくていいよ」
 ……何を考えてるんだよ、僕は。つばさが自分の思いを告白したのに、何を悩む必要があったのだろうか。
 決めた。もう、迷わない。
 いや、でも、始まりは無難に世間話辺りで雰囲気を盛り上げてから。
「晴れてるな」
「……」
「えっと、一週間は晴れが続くってさ」
「…………」
 敢えなく撃沈。仕方ない。手をつばさの肩に置――こうとして、恥ずかしいから頭に置いて。
 ビクッと僅かに震えるつばさ。
「なあ、つばさ」
 ここで格好良い言葉を……いや、意地張らなくてもいいや。
 深呼吸をして、
「……僕は、お前が、大宅つばさが…………好きだ」
「…………!」
 たったこれだけの言葉、それだけで心臓は早鐘のように鳴り、視界が狭くなって。
 沈黙。
 胸の動悸が更に早くなり、頭の芯がすごく熱くなって、ついでに顔も。
 一秒が一時間にも一年にも感じて。
 なあ、神サマ。お願いだからイジワルをしないでくれ。
 この沈黙はつらすぎる。
 だから僕は祈った。神サマに。

 そして、やっとつばさが顔を上げて、少しだけ照れながら笑ってて……。


 こうして、なごやかな春の休日に、僕たちは友達から、

 やっとのことで、恋人同士になった。


 紆余曲折はあったけど、二人でなら明日からはきっと世界が楽しいだろう。


  ―fin―


悪魔とオタクと冷静男の最初へ 悪魔とオタクと冷静男 33 悪魔とオタクと冷静男 35 悪魔とオタクと冷静男の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前