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異形の妻乞い
【近親相姦 官能小説】

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第15章 -1

高い窓からゆるく流れこむ潮の香りの風を受けながら、慧次郎はベッドに後ろ手に手を付いて早希と会えなくなった頃の事を思い出す。
18の夏休みに気まずくなった弦一郎は、自分が大学合格した頃から決定的に冷たくなった。その後突如フランス出向が決まった早希が慌ただしく渡仏すると、弦一郎はゆりえに離縁状をつきつけた。
『二人でこの家を出て行ってくれ』弦一郎は決然とした表情で言った。
急転直下の出来事に慧次郎は言葉も無かった。自分の所為なのか…。
『理由は?』だがゆりえは淡々としていた。その冷静さに気圧されながらも弦一郎は『理由はお前が十分解っているはずだ』憮然と突き放す。
『…分かりました。離縁状に捺印して出て行く代わりにこの書面に署名と捺印を下さい』
と、ゆりえの差し出した紙は弁護士に作成させた正式な約定書だった。それを見た弦一郎と慧次郎は瞠目した。
そこには家裁に提訴しない代わりに慧次郎の大学卒業までの学費の一切を弦一郎が負担する事、ゆりえと慧次郎には今後一切接触をしない事、等が書かれていた。
少なくともゆりえにとっては想定内の成り行きだった事に同席していた慧次郎は驚愕した。それを予期してここまで着々と準備してきたゆりえの冷徹さに我が母ながら背筋の寒くなる思いだった。
話し合いの済んだその日のうちに最低限の身の回りのものを手早く荷造りし、ゆりえが慧次郎を連れていった所は広い新築マンションだった。それは慧次郎がこれから通う大学に歩いて行ける場所にある。一体どこまで周到なのか。
呆然とマンションの入口に立ち尽くしている慧次郎を見て『慧次郎さん、いらっしゃい。話があります』てきぱき荷物を整理しながらリビングでゆりえが促した。
その時ゆりえから聞いた自分の出自は驚くべきものであり且つ今までの自身への疑問を全て氷解させるものだった。
『慧次郎さん、気落ちする事なんて何もないのよ。これはこれで私は覚悟してたから。慧次郎さんあなた、早希さんが好きなのよね』とゆりえが微笑みながら質した。
『え…』慧次郎はゆりえの指摘に顔を強張らせて言葉を失った。
『ふふ…。いいのよ。“当然”だもの。あの家に入ったのも、慧次郎さんに早希さんを引き合わせる事が目的だったのだから』驚くべき言葉に慧次郎は目の前の母に得体の知れない恐怖を感じた。
『慧次郎さん、私達は弦一郎さん達のような和民族ではありません。日本に元々居た少数民族の1つで、今はある山に小さな集落を作って住んでます。私達はね、一言で言うと“異常に”優秀です。貴方自身を思えば納得できるでしょ?慧次郎さん、貴方今まで何か苦労して勉強した事ある?運動は?…無いでしょう。私たちは和民族とは比較にならないほど優れてる。しかも私達には特殊能力があって、私達は単独だと一緒に住む人達の守り神になる。私達といるだけで、そのコミュニティは繁栄する。だから和民族の中でもとりわけ野心家は、私達一人一人を家族として引き込んだ。今、成功している起業家や政治家、経営者は私達を囲ってるケースがとても多いの』
そこまで聞いても慧次郎には今回の仕儀には結びつかない。息子の戸惑う様子を眺めながらゆりえは続ける。
『私たちのもう一つの特徴はね、“完全なる近親婚”と言う事。通常の人間と違って近親者同士でつがって子を為します。そしてその関係が近ければ近い程、生まれる子供は優秀で強い。だから私たちは本能的により近い血縁者に惹かれる。通常の人間同士では近親婚で生まれた子供は劣性遺伝が出て、どんどん弱くなるから多くの国は法で禁じてるけど、私達にとっては真逆。貴方は3つで和民族社会の慣習に浸かってしまったから罪悪感に苛まれたかも知れないけれど、私達にとっては異常でも何でもない。…で、ここからが本題。貴方が早希さんに惹かれたのはごく当然の事なのよ。何故なら早希さんは貴方の実のお姉さんだから』
『え…』そこまで聞いて慧次郎は絶句した。ありえない。ゆりえは今38だ。
『貴方と早希さんを産んだのは私の姉なの。貴方の名前が慧“次”郎と言う事に疑問を持ったことはなかった?姉にとって貴方は早希さんの次に産んだ二番目の子なの。そして貴方の父親は私達の兄。早希さんとは異父姉弟です』慧次郎が言葉を継げないほど衝撃を受けているのも構わずゆりえは話を続けた。
『兄が死んで…すぐに姉が死んで、貴方を引きとった時から私は貴方を早希さんに会わせようと決めていた。ただね、これはいずれ弦一郎さんにとっては望ましからざる事態になる。つがいになるや、私達は内側にエネルギーが向かって、外のコミュニティには恩恵を齎さなくなるから…。弦一郎さんの事業があれほど成功しているのは、姉さんと早希さんのお陰。でも貴方と早希さんがつがえば…』
『でも…母さん…』何故ゆりえはわざわざ村を出てまで早希に引き合わせる必要があったのか。それがそもそもこの悶着の元凶と言える。しかも、ゆりえはこの顛末が最初から覚悟していた。そうまでして何故―。
『私達はこの数十年、大変な危機を迎えてます。村には今、若い女の子は4歳と10歳の2人しかいない。そして子供を産める年頃の女性は早希さん一人なの。このまま男たちが外に仮初めのつがいを求めれば私たちの血は薄くなってしまうし、直系の人口は激減するのが目に見えてる。私達の唯一の弱点が子供がとても出来難い事なの。私は、自分の育ったあの村がこのまま死に絶えるのは寂しくて耐えられない。これは私や村のエゴかも知れない。でもね、貴方だって一番愛せる女性は早希さんなのだし』
ゆりえをじっと見つめていると、どことなく早希に面差しが似ているように感じた。慧次郎の心を読み取ったのか、ゆりえはうっとり慧次郎の頬を撫でると『慧次郎さん…本当に寿一兄さんに生き写しになった…。私を早希さんと思って抱いてもいいのよ?交接は経験ないでしょう。私だって慧次郎さんとは交わってみたい。いつか早希さんを抱く時に困らないよう手ほどきをしてあげる』ゆりえは艶然と微笑んだ。
その時、慧次郎に流れる一族の血が疼いた。


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