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異形の妻乞い
【近親相姦 官能小説】

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第1章-3-1

早希の胸が早鐘を打つ。はやる気持ちを抑えながら音を立てぬよう足元に力を込め、そこにある誰のものとも分からぬ小さめの草履に足を通した。自分には少々きついが構ってはいられない。
引き戸中央の金属製のバーをゆっくり上げて必要最低限の広さだけ慎重に戸を開ける。
すると石畳の道が湾曲しながら庭木の奥に消えており、門までが相当な距離だと言うことを思い知る。でも焦らず進まなければ。早希は自分にそう言い聞かせて静々と歩を進めた。
早起きの鳥がどこからかさえずっている。鬱蒼とした緑の生い茂る庭園を走る永遠に続くかに思える長い道のりを歩くと、ようやっと前方に高い黒塀の門が見えてきた。
はぁ…思わず安堵の溜息が溢れる。恐る恐る後ろを振り返ると、屋敷はもう見えない。
閂を上げ、軋む門を押し開いて表に出ると、そこは舗装されていない田舎道が左右に伸びている。前方は広大な田畑。背後には屋敷越しに傾斜の緩やかな山肌が見える。右も左も民家らしい民家は全く見えない。気持ちが折れそうになるのを何とか鼓舞して早希は山道に細く繋がる方とは逆方向の、朝日の照る方角を選んで歩き始めた。すると、前方に大型犬を連れた上背のある初老の男性がこちらに向かってくる。あの人に訊こう…!
早足でその男性に近づき、『あの…!すみません。交番を探しているのですが…』縋るような目で早希が話しかけると、男性は目を見開いて『あなた…』としばし絶句した。
事の重大さを気づいてくれたのか…!こんな格好で荷物もなくこんな時間に歩いているのだから、のっぴきならない何事かを察知してくれたに違いない。一縷の光明を見る思いでその男性を見上げると、
『早希さん…何でこんな所を歩いているんですか。早くお戻りなさい』と嗜めるような口調でそう言った。
『え…』
何故この人は私の名前を知っているのか。そして何故私が屋敷を抜け出してきた事を知っているのか。
早希は恐ろしくなって思わず後ずさり、踵を返して逆方向に走り出そうとした。すると、逆方向から老夫婦がこちらに向かって歩いてくる。早希が再び交番の所在を訊こうと二人に口を開きかけたところでその夫婦は『貴女は…。何故こんなところにいらっしゃるんです。早くお屋敷に戻られないと』と背後の男性と同様の事を言う。
恐怖で体が動かない。ここの住人は全員私が解っているのか…。慧次郎との事も…?
どちらにも進むことが出来なくなり、早希は呆然と立ち尽くした。
すると、初老の男性が後ろから近づいて老夫婦に飼い犬のリードを預けると、早希を軽々と抱き上げた。
『あ…っ』瞬時男性の肩に手を当て下りようともがくが、微動だにしない。そのまま男性は早希を抱き上げたまま、屋敷に向かってすたすた歩き始めた。
『お願い…!下ろして下さい。私は家に戻らないと…!』
初老男性は聞く耳も持たず、無言のまま門をくぐっていく。
するとそこには慧次郎が腕組みをして憮然と立っていた。
『慧次郎さん、無用心ですね。早希さんをもっとちゃんと見ていないと』初老の男性はそ
う言うと、早希をそのまま慧次郎の両腕に預けた。
『すみません。ご面倒をおかけして…』慧次郎は浅く頭を下げ、早希を抱いて屋敷に向かう。
早希は悟った。逃げることはかなわないのだ。


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