第15章-1
―犯人が判ったらどうしよう。沙良は医師として主婦としての仕事を淡々とこなしながら、この半月の間、折に触れ考えてきた。看護師なのなら、解雇で済む。だが紘一郎だったら?創だったら?いずれにしても修羅場は避けられないだろう。でも、仕方がない。近親者から憎まれて、嫌がらせを受けた―。世間でもあることだ。関係は変質するかもしれないが、その時の犯人の出方でどうするか決める、それしか、ない。何度考えても行き着く結論はこれだった。出たとこ勝負、だ。10日経った頃、とうとう巽から沙良の携帯に連絡が入った。
―今日、いらっしゃれませんか?何時でも結構ですが。―
『誰か判ったのですか!?』
―ええ。引き落とした時刻の入った証拠写真をお渡ししたい。―
巽にそう言われて是非もなかった。診療終了を待って、後の始末を看護師達に任せると、白衣を脱いだだけの軽装で化粧も直さず巽のいる事務所に向った。
…果たして、この半年で500万近い預金を引き出していたのは夫の紘一郎だった。
不自然なマスクに似合わないサングラス。だが横にも奥にも幅のある四角い体型、少し後退した頭髪は間違いなく夫の紘一郎だった。それを見て言葉を失っている沙良に、
『桂木さん…、旦那さんの身辺を探りますか?』巽は、まるで自分が沙良を傷付けてしまったような申し訳なさそうな表情で、そう訊いて来た。しばしあって沙良は、『いえ…。いずれお願いすることになるかもしれませんが、今回の所は…これで、結構です…』浅い呼吸の中から搾り出すようにそう答えた。
『控えを桂木さんのPCにも転送しましょうか?』
『はい…お願いします』短く巽に礼を言って沙良は事務所を辞した。