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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-62


「…う、そ…冗談、ですよね…先輩…」
 自分でも声が震えているのが解る。頭の奥の方が、冷たく…真っ白になっていく。もう、絶対に味わう事は無いと思っていた感覚。
「…へ…返事…して、くださ…ぃ…」
 全身から力が抜ける。声も詰まってしまう。
『マ、マスター!! 弟様、し、心臓が止まっちゃってるみたいですよ!? あわわわ、私がやった訳じゃありませんからねッ!?』
 ヘクセンが、自称高性能な(実際高性能な)センサーを聡に向けて走査させて、その事実を妃依に伝えた。
「…たら…」
『え!? な、何ですか!? マスター!!』
「…どう…したら…ヘクセンさん…私、どうしたら…いいん…ですか…」
 唐突すぎるこの事態と、彼女にとっての過去のトラウマも相まって、妃依にはただ、嗚咽交じりでヘクセンに懇願する事しかできなかった。
『マ、マスター…!?』
 こんなに弱々しい表情のマスターを見たのは初めてですよ…ッ!? と、ヘクセンは思わず己の外部センサーを疑わずにはいられなかった。
「…わ…わた、し…」
『だっ…ダイジョーブですッ!! ハイスペックなこの私にお任せくださいマスターッ!! 弟様の一人や二人、楽勝で復活させてやりますとも!! ええ!!』
 彼女にしては珍しく、打算抜きでそう発言していた。それ程に、今の妃依の表情は痛々しかったのだ。
「…ほ、んと…ですか…」
(あぁっ…!! こんな、怯えたウサギの様な眼をしたマスターを目の当たりにできる日が来るとはッ…!! 弟様には悪いですが、ホント生きてて良かった!! 死んでくれて、ありがとうございます弟様!!)
 と、論理演算回路上で非常に不謹慎な事を思いつつも、ヘクセンは妃依の為に打開策を提示する事にした。


「…ひぁ…っ…!!」
 聡からはあさっての方を向き、手で印を組んでいた茉莉は、突如、何かに弾かれた様に玉石の上に尻餅をついた。
「いたた…邪魔をされて、しまいましたか…」
「あのー…茉莉さん?」
「はい? 何ですか? 聡さん」
 声を掛けられ、茉莉はすぐに立ち上がると、一瞬前の事などおくびにも出さず、相変わらずの笑顔で返した。
「今の、何してたんですか…?」
 先の会話の終了後、突然、意味有りげな印を組み始めた茉莉を、訝しみつつも静観していた聡だったのだが、その上で今の有様だ。しかも『邪魔をされた』とも言っている。これで気にならない訳が無い。
「ええ…ちょっとしたおまじないですよ…? うふふ…」
「…ほ、本当ですか?」
 『まじない』は『まじない』でも『呪い』の方である様な気がする。
「大体、邪魔された…って、何に邪魔されるっていうんですか、おまじないなのに」
「それを言ってしまったら、おまじないの効果が無くなっちゃいますから、ね?」
「は、はあ」
 『おまじない』の内容は、確実に――確実によからぬ事だ、と、自分の第六感は激く警鐘を鳴らしていたのだが、ソレが気にならないほどに、俺は茉莉さんの笑顔にすっかり騙されていた。
 いや…本当は、騙されている事に気が付いていながら…しかも、さっき『騙されないぞ』と言ったばかりであるにも関わらず…それでも俺は、騙されていた。
 …俺の馬鹿、馬鹿、宇宙馬鹿…あはハ…ハハは…。
 と、深層心理から徐々に崩壊しつつも、聡は目下の目標である『何とかして蘇る』を達成する為、自分の中の(まだ無事な)冷静な部分で沈思黙考を開始した。
(茉莉さんの様子と言い、吉祥さんの口封じをしてる事と言い…多分、俺の身体はまだ、完全に死んではいないんだろうな)
 実際には、茉莉によって傀儡と化したヘクセン(外装)の手で、ほぼ完全な心肺機能停止状態に陥ったのだが、生憎、聡には知る由も無い。


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