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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-61


「吉祥さんって、たまに金星からの電波を受信して、意味不明な事を喋りだす癖があるんですよ。困った鬼さんですよね? うふふ…」
「言い訳にしても酷すぎますよ!! しかも発想が微妙に古いし!!」
「えっ…? ふる…? 今、何と言いましたか? 聡さん」
 茉莉は、顔に笑顔を貼り付けたまま、瞳の奥からおぞましい怨嗟の波動を沸き立たせて、聡に向かって放ち始めた。
「いいいいい、いえ!! な、何も!! し、強いて言うなら『茉莉さんの発想は、何と意外性に満ちているのだろう…美しい』などと!! 言った様な気が…!!」
 余りにも適当過ぎる言い訳だったのだが、それでもその一言に満足したのか、茉莉からのドス黒いプレッシャーは霧散した。
「ああ、それにしても困りましたね…吉祥さんが急に臥せられた所為で、聡さんを運ぶ事が出来なくなってしまいました…聡さん自身も、もう起き上がっちゃってますし」
 茉莉はそう言いつつ、心から残念そうに嘆息する。
「そーですかそれはざんねんでしたねあはははは」←心の底から嬉しそうに棒読み
「…こうなったら、『現象』に強制介入してでも…傍に傀儡に丁度良いモノも転がっているようですし…」
 聡から顔を背け、茉莉はぼそぼそと小さく呟いた。
「えっ? 今、何か言いました?」
「…はい? 何でもありませんよ? うふふふ…」
 聡に向けられたその微笑みは、今までで一番の輝きを放っていた。


 宍戸妃依は半開きとなった浴室へのドア(正確には更衣室)の前、袖で鼻を押さえ、顔を顰めて立ち尽くしていた。
「…」
『どうしたんですかッ!! マスター!! ここまで来て『やっぱりやめとこう』なんてのは無しですよ!?』
「…でも…これはちょっと」
 ドアノブに手を掛けた所で、どうしてもそれを開く決意が湧いてこない妃依だった。
『『でも』じゃないですよ!! 弟様が心配じゃ無いって言うんですか!? 弟様の為なら!! たとえ火の中、水の中、琴葉様の暴挙の最中!! って、くらいの覚悟が無いんですか!?』
「…最後のは絶対に無理ですけど…」
『まあ、かく言う私にも無理ですが!! ともかく参りましょう!! 『何にしても、壊れるよりはマシでしょう?』と琴葉様も常々仰ってますし!!』
「…何だか、ちょっとだけ、ヘクセンさんが可哀想に思えてきました…」
 ともあれ、ただ突っ立っている訳にもいかず、妃依は意を決して扉を開け放った。
 そして、予想外の異様な光景を目の当たりにしてしまった。


 ――停止している筈のヘクセンの外装が、聡に馬乗りになり、淡々と首を絞めていた。


「…な…ッ」
 妃依は、考えるよりも先に行動に移っていた。
 要するに、丁度手にしていた『金属棒』を、『明らかな敵』目掛けてブン投げたのだ。
『うひああァァァッ!! ぐはッ!!』
 聡にまたがっていたヘクセンの外装は、不本意な吶喊を仕掛ける事となった本体諸共、床に吹き飛ばされた。
「…な、何をしてるんですかっ…ヘクセンさん…っ」
 ようやく思考が追いついた妃依は、語気を荒げてヘクセンを問い詰めた。
『ヒトをいきなりブン投げといて、第一声がそれですか!? マスター!!』
「…どうして…先輩を襲っていたのか、と聞いてるんです…ッ」
 普段らしからぬ妃依の様子に、ヘクセンは多分の危機感を得て、己の抗議はともかく質問に答える事にした。
『し、知りませんよ!! 私じゃなくて、マイボディーに聞いてください!!』
「…っ…そんな事より…先輩…」
『そ、そんな事!?』
 ヘクセンの声は相も変わらず無視され、妃依は見た感じピクリとも動いていない聡の元に駆け寄った。
 既に、顔を覆いつくしていたセロテープは本人の吐瀉物によって粗方剥がれてたのだが、それでも張り付いていた残りを急いでむしり取る。そして、自分の服が汚れる事などまるで意に介せず、袖で聡の顔を拭った。
「…先輩、先輩ッ…」
 揺すっても叩いても、まるで反応が無い…。その時触れた先輩の肌は、恐ろしく冷たくて…。
 妃依の脳裏に、先程までは欠片も考えていなかった、最悪の事態の名が湧き上ってきた。
 ――つまり、『死』。


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