【ロケットパンチを君の胸に♪】〔第一部・受難編〕-3
『不幸な事故だった…戦いに巻き込んでしまって我々も多少は責任を感じているんだ…まぁ、これも運命だと諦めて我々に協力してくれたまえ…あっははは』
暗闇長官は、ごまかすように笑った。その笑いに涼華の怒りは爆発する。
「冗談じゃないわよ!訴えてやる!!あたしの体を元にもどしてよ!」
『だから…君の体は、もう処分されて無いんだから…どうしても、と言うなら』
暗闇長官は、足元に置いてあった紙袋の中を、ゴソゴソといじくった。
『唯一、残っている君の肉体に記憶を再移植してもいいが…』
と、言って暗闇長官が、取り出した物体に、涼華は言葉を失う…。
液体に満たされた円筒型の透明なケースの中に、両目を閉じた涼華の生首が入っていた。
『小型の生命維持装置に、君の首は接続されているから…いつでも、君が望むなら元の肉体〔首だけだが〕にもどることができる…さあ、どうする、どうする?』
自分の生首を見せられた涼華は、諦めたように。
「このままで…いいわ」
と、呟いた。
『そうか、正義のために戦うコトを決心してくれたか…うんうん』
嬉しそうな暗闇長官の態度に、涼華はムカついた。涼華は心配そうな顔で、妹たちのコトを聞いてみた。
「…鈴美は?龍彦と翔くんは?どうなったの?」
『う〜ん、君とあと一人は…我々、戦慄地球防衛軍が助けたのだが…残りの二人は、残念ながら敵の手に落ちた』
「敵って…?」
暗闇長官は、拳を握り締めながら。
『世界征服をもくろむ、悪の組織…我々の宿敵【フェアリー☆テール】だ!』
と、言った。
その頃…涼華の妹の鈴美も姉とは別の意味で、受難にあっていた。
「……ここまでが、我等アットホーム秘密結社【フェアリー☆テール】の歩んできた苦難の歴史だ、ここまでの説明はいいかな?鈴美ちゃん」
フェアリー☆テールの地下秘密基地…そこの一室で、助けられた鈴美は、悪の心得の講義を受けていた。
「はぁ…なんとなく」
マンツーマンで講義を受けている鈴美の格好は…真紅のレザー皮で作った、悪の女幹部服を着せられている。
「よろしい…鈴美ちゃんは、なかなか物わかりがいいね…さすが、うちの首領が幹部候補として、見込んだだけのコトはあるね」
講義をしている、金髪を腰まで伸ばした。美形の黒マント男が、鈴美を賛美した。
フェアリー☆テールのファースト大幹部…【ペパーミント伯爵】だ。
「この調子だと鈴美ちゃんは、立派な悪の幹部になるよ…まあ、うちの組織はアットホームな悪の組織だから、なにも気がねしなくていいからね」
自分たちが、悪だと自覚している悪の組織って…と、鈴美は内心思ったが、そのコトを口に出すのはやめた。
「はぁ…あのぅ、一つ質問してもいいですか?」
「なんだい、ボクでわかるコトなら答えてあげるけれど…」
「重体だった、あたしの体を改造手術して、命を助けた…って言っていましたけれど…いったい、どんな改造を…」
「うんっ、いい質問だね」
まるで、家庭教師が生徒に教えているような口調で、ペパーミント伯爵は言った。
「電気活性ポリマー樹脂素材の人工筋肉や、チタン合金製の人工骨格を埋め込んであるんだよ…あと、小型のミサイルポットとかの兵器なんかも内蔵している…」
「はぁ…そうですか」
「あまり、驚いていないね…」
「実感わかないんですけれど…お姉ちゃんだったら、パニックになると思うけれど」
鈴美は、自分の体を触ってみた。やっぱり普通と変わらない。
「さすが、幹部候補…度胸が座っているね…鈴美ちゃんは」
ペパーミント伯爵が感心していると、部屋のドアを開けて──まるで、コントに出てくる大工の棟梁のような、人物が入って来た。
「おうっ、ペパーミント…ちょっくら邪魔するぜ」
ねじりハチマキに、腹巻き姿のその男は…いきなり鈴美に近づくと、鈴美の腕を曲げてみたり…首を押さえて、左右に振ってみたりした。
「人工関節の具合は、いいみてぇだな…どうでぇ、小型ミサイルや、両目に内蔵した殺人レーザー光線が誤作動で発射しちまうコトは、ねぇかい?」
鈴美がなんと、返答したらいいのか困っていると、ペパーミント伯爵が口を挟んだ。
「鈴美ちゃんに、紹介しよう…こちらは、鈴美ちゃんを改造した、世界的な改造人間学の権威【柳川教授】だ…」