続・聖夜(後編)-8
私は今でも、あの神父が死の直前に私に残した手紙を読み返すことがある…。
その文字を追うごとに、神父と母麗子の眩しい愛の残像が、睦み合うように折り重なり、私の中
に優しげな光を投げかけているような気がするのだ。それは、やがて白い雪を舞いあげる穏やか
な風となって私の中に甘美に湧き上がってくる。
音もなく吹いてくるその風は、どこまでも透明できらきらと輝き、私をゆるやかに抱き上げなが
ら、七色に煌めく美しいオーロラの光の果てにある永遠へと、私を導いてくれそうな気がした…。
そして、私は、今になってやっとふたりのあいだにある、かけがえのないものを受け入れること
ができたような気がする。
明日のクリスマス・イブの夜に、ふたたび満天の星の煌めきを縫うように耀く、あのときのオー
ロラをふたたび見ることができたらいいと、私はふと思った…。
―――
…わたしの愛する娘へ…
私が天に召される日も近づいてきたような気がします。いや…私はほんとうに天に召されるのか
はわかりません。私の罪を主がどう思われているのか、私はずっと悩み苦しみ続けてきました。
私の死後、きっとあなたが、ここを訪れてくれることを信じて、この最後の手紙をあなたに書い
ています。
あなたが、私の娘であること…そう思うことから、私はずっと逃れようとしていました。何のた
めに…そう…神の愛のために、私は怯え、苦しまなければならなかったのです。
そして、あなたが、あの教会の地下室で私の鞭を受けたとき、私と麗子さんのすべてを知ってい
たのだと思うと、私はあなたの背中に鞭を振り下ろすことなどできなかったと思います。
確かに、私はあなたと初めて会ったとき、麗子さんの幻影におびえました。なぜ、私は怯えなけ
ればならないのか…自分でも理解できなかったような気がします。もちろん、あなたが自分の娘
などとは思いもしなかった。
でも、麗子さんにそっくり似ていたあなたの乳房や性器に唇をふれたとき、私は麗子さんが自分
を呼んでいるような気がしたのです。
あのころ、まだ神学生だった私は、神への愛を誓いながらも、あのサナトリウムで麗子さんと出
会い、恋をし、彼女をあまりに深く愛してしまった。
そして、性の交わりという罪を犯してしまったのです。私は犯した自分の罪を神に告白し、烈し
く、ひたむきに祈り続けました。
自分の弱さに対して、私は自分をどう罰すればよいのか、主は、決して私に告げることはありま
せんでした。沈黙を続ける主に対して、私はどうしていいのかわかりませんでした。