嫁を肉食にしたオトコ-1
…呼吸が止まるかと思った。10年前突然自分の前から姿を消した女性が目の前に現れたのだから。驚きは一瞬で隠し、挨拶を交わす。
「麻生と申します。よろしくお願いします。」
彼女もほんの一瞬驚いた表情を見せたがすぐに真顔に戻った。あの時からあまり変わっていないような気がする。ストレートだった髪は柔らかなパーマがかかり、うっすらと化粧をしているようだが、ベビーフェイスはそのままだ。ただ、苗字は変わっていた。30代になっているだろうから不思議でも何でもないのだが。
本社人事部から異動してきて、数ヶ月は何も起きなかったし、起きようもなかった。2人きりになる時間などそうそうない。プライベートな会話をかわすこともない。周囲の話から彼女の今について少しずつ知っていった。歳の離れた夫がいること。小学校にあがる前の娘がいること。家事はほとんど夫任せで、お弁当も愛妻弁当ならぬ愛夫弁当持参なのだ、と。よく小さな子供を持つ女性社員にありがちな早退・欠勤もなく、それどころか残業もバリバリこなす。温和な性格・雰囲気とはかけはなれた仕事っぷりは上司・同僚・部下問わず客先からも評価が高い。会議でも積極的に提案するし、荒れるような雰囲気があればすかさず回避するようなフォローはかかさない。中途採用、そして小さな子供がいるにもかかわらず短期間で肩書きがつくのもうなずける。10年前突然姿を消したあどけない少女のような女はその点見事に変身していた。やっぱり彼女が欲しい。彼女は警戒しているのか、なかなか二人きりになるチャンスもない。申し訳ないが立場を利用して二人きりになるチャンスを狙い続けた。
「なんでいなくなった?」
再会して数ヶ月が過ぎ、ようやく再び関係を持ったあとベッドの中で尋ねると彼女は曖昧に笑ったあと、小さくため息をついてから話してくれた。
「結婚してる、ってわかったから。当時はまだ純粋だったんですよ、私も。」
「あのあとすぐ、離婚したんだよ。」
「え?」
「凛と初めて会った前日にもう元嫁さんから離婚届突きつけられてたんだ。ただ子供のこともあったし、意地もあったんだろうな。なかなか提出できなくてさ。凛をあんな形で失うんだったらもっと早く提出しておけばよかったよ。」
何を今更、と罵られても仕方がないが、彼女は穏やかに微笑んだだけだった。うっかり、帰したくない、という本音をこぼしそうになる。やっと再び手に入れた宝物は、見知らぬ男の所有物である証が薬指に輝いていた。あの頃、きちんと自分の過去と決別してから彼女と向き合っていたら、こんなに遠回りせずに済んだのだろうか。煙を体内に取り入れながら物思いにふけってしまった。ふと隣をみると、凛が眠ってしまっている。このところ業務も増やしてしまったせいで仕事もハードだったし、10年ぶりだというのにかなりハイペースで攻めてしまったから仕方がないかもしれない。無邪気な寝顔を毎晩眺めることができる男を、心底羨ましく思う。
「ほら、凛。眠っちゃダメだよ。帰りなさい。」
口づけして、声をかけると眉間にシワを寄せて抗議する。目を開ける気配はない。
「りーん、起きなさい。」
もう一度声をかけても反応は薄い。仕方がないので凛の細い足の間に手を差し込む。あまり濃くない茂みをかきわけ、先ほどまで分身が収まっていた泉の入口を指でなぞると、まだしっかりと潤っている。敢えてその上の蕾は刺激せずに泉の中に指を差し込む。
「ふあぁんっ。や、やだ聖さんっ。」
驚いて飛び起きた凛の泉の壁がきゅうっと指に吸い付いてくる。
「相変わらず凛は反応が早いな。エロい身体のまんまだ。ダンナさんに可愛がられてるからか?」
「い、いやぁ。」
「ねぇ、凛。どっちがいいの?ダンナの指?オレの指?」
さっき交わった時、凛は言ったのだ。オレのことを忘れたことがない、と。それに凛の弱点は耳と言葉攻め。調教までしたつもりはないが、あの頃の数度の交わりは完全に凛を開花させた。
「ん…もうヤメて…」
停止を懇願する唇とは裏腹に、瞳は火を宿している。