羞恥の電車通勤-1
ベッドサイドに置いてある携帯電話。
そのくぐもった断続的な振動音が、あいりを浅い眠りから引き戻した。
メールの着信を知らせる青いライトがせわしなく点灯している。
室温はかなり上がり始めていたが、カーテンの隙間から差し込む朝の光は弱々しい。
また今日も雨なのだろうか。
梅雨独特の湿った空気が、何も身につけていない素肌にじっとりと絡みついてくる。
身体が鉛のように重い。
川瀬に抱かれることを自ら哀願してしまったあの日以来、あいりは眠れない夜が続いていた。
坂道を転がり落ちるように堕落していく自分をどうすることも出来ない。
性の喜びを覚えてしまった肉体は、時に精神力でセーブできないほど暴走してしまう。
川瀬に抱かれれば抱かれるほど、あいりの肉体の中に、はしたない淫欲の芽が植え付けられ開花していく。
自分でも思いがけないようなタイミングで突然湧きあがる強烈な性的欲求。
職場では必死でその欲望を抑えているが、どうしようもなく肉体が疼いてしまう瞬間が一日に何度も訪れる。
身体の奥がじくじくとただれ、熱を帯びて湿っているような……自分自身の心と肉体が、熟れすぎた果実のように腐敗していくような感覚が常にあいりを包みこんでいた。
いつの頃からか、あいりは毎晩のように自慰にふけるようになっていた。
深夜、シャワーのあと裸のまま倒れこむようにベッドに入ると、手が無意識のうちに乳房や股間をまさぐりはじめる。
何かに憑りつかれたように夢中で自分の肉体を攻めたてるあいり。
「……い…いや…ダメ……」
うわごとのように抵抗の言葉を口にしながらも、淫靡な行為にのめりこんでいく自分を止めることは出来ない。
形が歪むほどに乳房をもみしだき、ペニスに見立てた制汗スプレーの缶をヴァギナに深く挿入しながら陰核をこね回す。
蜜壷が快感で収縮するたび膣壁に感じる息苦しいような拡張感。
下半身に埋め込まれた不快な異物感があいりの被虐願望を刺激し、倒錯した快楽を呼び起こす。
『……私は何をしてるの……』
こうしてどんどん坂道を転げ落ちていく……。
そしてその行き着く先は
きっと救いようのない闇―――。
激しい自己嫌悪にさいなまれながら、あいりは何かにとりつかれたかのように虚しいアクメを何度も何度も繰り返す……。
そうやって気絶するほどまでに疲労しなければ、まともに眠ることすら出来なくなってしまっていた。
身も心も、ボロ雑巾のように疲れ果てていた。