陥落-1
「………ハァ…ん…んんっ……ハァ…ハァ…」
静かなバックルーム。
唇と唇が密着する湿った粘着音と、その合間に苦しそうに漏れる荒い息遣いだけが延々と続いている。
あいりの可憐な唇を無理矢理こじ開けて侵入してきた川瀬の舌は、柔らかな粘膜を隅々までまさぐるように、口の中を執拗に動きまわっていた。
上唇と下唇を交互に強く吸われながらその裏側を絶妙な舌使いでなぞりあげられると、全身がゾワリと粟立ってしまう。
テクニカルな川瀬の舌技に翻弄され、あいりの口はいつしかだらしなく開いてしまっていた。
『……ダメ……このままじゃ……』
危機感を感じてその腕から逃れようと試みてはみたが、背後の壁に身体全体を強く押さえつけられ、顔を両手で強く挟まれているためまったく身動きが取れない。
延々と繰り返される、脳の髄までとろかすような官能的な舌と唇の動きに、あいりの抵抗力はもうほとんど奪われつつあった。
「……ん……アアッ…ハアッ……」
過去に愛した恋人からされたどんなキスよりも、川瀬のキスはあいりの肉体を痺れさせ、恐ろしいほどの快感を与えてくる。
『……嫌なはずなのに……』
唇を貪られながら、これから自分がされるであろう仕打ちを想像するだけで、あいりの身体ははしたないくらい淫汁を垂れ流してしまう。
まだ身体には指一本触れられていないというのに、すでに溢れ出した大量の愛蜜が下着をべっとりと濡らしてしまっているのが自分でもわかった。
『私はいつからこうなってしまったのだろう―――』
川瀬とのセックスによってイくことを覚えてしまったあいりの肉体は、初めてここでレイプされた時より随分感じやすくなっている。
女を「オモチャ」としか思っていないことがはっきりとわかる、川瀬の冷酷な性行為。
彼に犯されたあとは、いかに強烈な快感を得ようとも、屈辱感と虚しさだけしか残らない。
――にもかかわらず、回を重ねるごとに川瀬に抵抗する気力が自分の中で薄れてきていることにあいりは気付いていた。
『どうせ犯されるのならば抵抗せずに早く事を終わらせてほしいから―――』
初めは自分自身にそう言い聞かせていた。
だが、果たして本当にそうなのだろうか?
抵抗をあきらめてから絶頂に導かれるまでの間―――身体中の全神経がいつもより敏感に研ぎ澄まされているような気がする。
それは嫌悪感からというよりむしろ、自分の肉体全てが川瀬の愛撫をより強く感じ取ろうとしているからではないだろうか―――。