続・聖夜(前編)-2
あのころ…
…鞭でわたしをぶって…どうして、ぶてないの…そのあなたのズボンのベルトでいいわ…わたし
の衣服を今すぐ剥いで、わたしの裸を思う存分そのベルトでぶって欲しいの…
…早く…早くぶって…いいのよ…あなたが好きなように私を虐めて…あなたは、わたしを虐めた
いでしょう…そうなのよ…あなたのペニスで、私を乱暴に犯して欲しいの…
このサナトリウムに彼女が入院してきた三年前、ベッドに拘束した彼女の異常に取り乱した姿が
ユキオの脳裏にゆらいでくる。
ユキオは、狂気に錯乱した彼女の烈しい病的な叫び声にいつも動揺していた。
彼女が自分で引き裂いた病室着の胸元に、ユキオは震えるような指先を触れた。蕩けるような
眩しい肌をした白い乳房を掌に包み込んだとき、ユキオは露わになった乳房に吸い寄せられるよ
うに頬を寄せたのだった。
「…大丈夫だよ…落ち着いて…なにも不安なことなんてないよ…」
雪のように白い肌をした乳房へ愛撫をするとともに、彼女の華奢なからだをユキオが強く抱きし
めると、彼女は幾分落ち着いたように瞳を閉じることが、何度となく繰り返された日々だった。
いまでも、ユキオは、彼女のからだの柔らかすぎるほどの肌の体温を思い出すことがある。
肩にかかった彼女の黒髪が、湖から吹いてきた穏やかな風に揺れたとき、ユキオは、彼女の滑ら
かな首筋からブラウスの胸元へと視線を這わせた。
その後、彼女は精神薬の治療によって、心の安定を少しずつ取り戻していく。
そして、数ヶ月後には、取り乱していたときの姿とは、別人のように穏やかで魅惑的な女性へと
戻っていったのだった。
でも、今でもときどき見せる虚ろな彼女の視線の先にあるものが見えなかった。あのころの彼女
の性の倒錯が、ふと彼女の横顔に浮かんでくると同時に、澱んだ狂気が暗い翳りとなり、彼女の
瞳の中にかすかに滲んでくるような気がした。
それが、ユキオにはどうしようもなく切なく悲しげに思えてきたとき、彼女を強く抱きしめてあ
げたいと思うのだった。
いつのまにか小粒の雪は、ふわふわと白い蝶が舞うような牡丹雪へと変わり、あとからあとから
音もなく降ってくる。
ユキオは、強く彼女のからだを抱きよせる。そして、彼女の美しい顔に吸い込まれるように唇を
重ねた。そのとき、瞳を閉じた彼女の長い睫毛の端に、穏やかに潤んだものが光ったような気が
した…。