織姫-Vega--1
「アナタはなぜ生きるの?」
あの日、俺は答えられなかった。
そして、今も知る事が出来ずにいる。
命というものがどれだけ強いのかは知っている。
殺風景な部屋に閉じ込められていたあいつを見ていれば。
『織姫と彦星』
あいつが口癖のように言っていた言葉を口にしてみる。
その音を吸い込んだ空には、その星は見当たらないけれど。
「私は生きるという約束をもらってるから、まだ生きている」
「誰かと出会うために」
……視線を下へとおろす。
そこには無数の人々が折り重なるようにして倒れていた。
倒れている……?
いや……違う。
死んでいるのだ。
俺の足元にはあいつがいる。
……「あいつ」の抜け殻が。
終末の時はいつも突然で
別れはいつも唐突で
俺はあいつに言いたい事すらも言っていなかった事を思い出した。
「生き物には約束があるんだと思うの。生きるって約束が」
「だから……私はまだ生きている」
外の世界を知らない少女、それがあいつだった。
限られた世界の中で、閉じ込められながら生きていて……
でも、あいつは確かにここで生きていた。
かすかな吐息をこの大地に受け渡す時まで。
その短い命を終えるまで。
終末を迎えた世界は恐ろしく穏やかで
耳の痛くなるような静寂が辺りを包んでいた。
穏やかな表情のあいつを背負う。
昔、交わした約束を果たすために。
「お前は……星に出逢えたのか……?」
答える事の無いあいつに問う。
そして俺は歩き出した。
あいつとの約束を果たすために。
「私が死んだら……誰も知らない所に連れて行って」
「織姫と彦星がよく見える丘へ」
星が息を潜めた夜
俺はこの世界の終末を知る旅に出た。