〜吟遊詩(第二部†旅立ち・試練†)〜-8
「それより、共通点が見えてきたね。『持ち主となる人』は純血で、腕に百合の刻印が合って、何かしら本を読まされている。これに当てはまる人を探して行けばいいんだ。頑張ろーね、エアル?」
ユノが力強く言う。
「ちょっと待てよ。俺はまだ自分が『持ち主となる人』だと認めてないから!それって一つの…」
「可能性でしかないわよ?」
ユノはエアルが言おうとした言葉を遮り、自分のものにした。
「でも、『持ち主となる人』と疑わしい以上、エアルを見過ごすことはできない。エアルも私の旅に付き合うのよ!それに、女の一人旅なんて有り得なかったの。危険だし、心細いでしょ?エアルが見つかって良かったー」
ユノは間髪を容れずにまくしたてた。
「でも!俺はここでメインブロック【ダリアン】を守り続けなきゃいけないし、第一、俺って国王だよ?城を離れるなんてできないから!!」
ユノの気が済んだ頃を見計らい、エアルはやっと話すことが出来た。しかし、ユノは負けじと再び口を開く。
「なに寝惚けた事言ってるの?ダリアンも持ってくのよ。それに、国王がいないくらいで国は傾いたりしないわよ。」
無茶苦茶を言うユノ。
「だからぁ〜…このメインブロックはダリアンって人以外には操れないって。つまり持ち出すことも不可能なのー…。それに、…」
エアルはまだ何か言っていたが、ユノはエアルを無視し、メインブロックの方に向き直った。メインブロックである、黒いもやもやを見つめる。
(こんなに形のないものを、アノ本は私に集めろと言う…。一体どうすれば…━━…!!??)
黒いもやもやが僅かに動きだした。
(なに??)
ユノは急に意識が遠退いていくように感じた。メインブロックが動くのに合わせてユノの頭は真っ白くなっていく。まるで、催眠術にかかるかのように。
「誰かが私を呼んでる…」
ユノはそぅ言って、メインブロックに向かって歩き出そうとした。
「有り得ないから!!しっかりしろよ!」
急に変わったユノの様子を変に思い、エアルがユノの腕を掴んだ。ユノは煩わしそうに視線だけをエアルの方に向け、
「離して…。大丈夫だから。」
と呟いた。ユノの目は焦点が合っていない。
「どこが大丈夫なんだよ!絶対、メインブロックに触れるなよ!自分の力でメインブロックを抑え込むことが出来るか、メインブロックに取り込まれてしまうかのどっちかしかないんだぞ!!【ダリアン】じゃないなら99%お前がメインブロックに取り込まれるに決まってんだよ!」
必死で制止しようとするエアル。
「エアル…どうして私を…人を信じようと思わないの?」
相変わらず焦点の合っていない目を向けてユノが言った。ユノの思考回路はまったく動いてなさそうだった。
そんな中でどうしてこんな言葉が言えたのか。ユノ自身にも、勿論エアルにも分からなかった。ただ、エアルはこの言葉を聞いて、掴んでいた手を緩めてしまう。
ユノは視線をメインブロックに戻すと、手を伸ばした。
(メインブロックに触れたい…)
本能なのか…何かがユノを急き立てた。
緩んだエアルの手を払うと、ユノは再びメインブロックに向けて歩き出す。ついに指が透明な円柱に触れた。
同時に、ユノが部屋に入ったときに消えた光が、再びメインブロックから発せられた。
柔らかな光が部屋の中を満たす。あまりの眩しさに、エアルは目を覆った。しかしユノが気掛かりで指の隙間から覗く。ユノは平然とメインブロックに触れ続けていた。
(なんだよ、これ!!)
エアルは立ち尽くすしかなかった。
メインブロックの黒いもやもやが激しく動きだし水晶の中から出てきた。更に透明な円柱をも通り抜ける。
円柱も水晶も無傷のままだ。
そのままメインブロックはユノを 伸ばした指先から包み込み始めた。あっと言う間に、ユノの姿は見えなくなってしまった。
メインブロックはユノの周りだけでなく、霧のように部屋に充満していき、全てを覆い尽した。気付けばメインブロックの発していた光も消えている。
ユノの立っていた所を見ても、ユノはもぅどこにもいなかった。
ユノの耳元で風のような音が鳴っている。
「体が…痛い」
ユノは雑巾が絞られるときのように、自分の体が捻られていくように感じた。
体の痛みが増していくなかで、イカれていた思考回路が徐々に回復していく。
周りは真っ暗でエアルの姿も無く、霧のような黒い粒子が渦を巻いてユノの体を何処かへ運んでいるようだった。
(メインブロック…?私、取り込まれてしまったのかな…?)
そんな思いが頭をかすった。そして……。
(!?…━やめて!!私の中に入ってこないでよ!!!)
ユノは自分の体の中を誰かに探られている感覚に襲われた。不快感が体中を駆け巡る。
(っ痛い…痛いよ。気持悪い…)